トワノクウ
第二十八夜 赤い海(一)
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顔に傷のある者を直視できる人間がいないと知ったのは、己がまさに顔面に二目と見れない醜い傷痕をこしらえてからだった。
気まずげに逸らされる目。嫌悪を滲ませ噛む唇。笑みになりきらない曖昧な表情――
世話をする巫女や賄いの坊主、面会に来る陰陽衆や各地の神職者の一挙一動が、いつも棘や針となって心に突き刺さった。刺さって、刺さって、いつしか心は硬く強張っていった。
それをふにゃっと軟らかくできるのは妹だけだった。
兄様! 包帯を替える時間よ
治らない傷痕を直視する手当ての時間は巫女が交替でやっていた。まさに彼女らの態度が突き刺さるそこに、妹が割り込んでから、全てが変わった。
妹だけは、この傷痕を忌避することなく、むしろ名誉の負傷だと笑って手ずから包帯を替えてくれた。
妹だけでいいと思っていたはずだった。
けれど、兄妹二人で閉ざした世界に、一人の少年が入ってきた。
気まぐれで世話をした人間だったが、少年にとっては大恩となったらしく、礼として顔の傷の手当てをさせてくれと頼んできた。
気持ち悪く……ないんですか? この痕が
正直、きついです。でも、我慢できないほどじゃありません。こんな程度のことで真朱さんの負担が減って、貴方のためにもなるなら、このくらいやらせてください
この時だった。彼に自らの命を預けようと心から思えたのは。
***
日も落ちて空が暗くなった頃。くうも眠りに就くために夜着に着替えている最中だった。
帯を解いて紬の袂に手をかけた時、それはくうを襲った。
「――ったぁ……!」
紬が床に落ちた。襦袢姿で、くうは右手の平を強く握りしめた。
この、亀裂が奔ったような感覚。覚えがある。薫が天座の塔に乗り込んだ時もこんな感じだった。
そして今、くうが浮かべたのは薫ではなく。
「――潤君――?」
理屈は分からない。だが、分かる。潤が苦しんでいる。傷ついている。
くうは襦袢を脱ぎ捨てて裸になり、下着を、ドレスを、帽子を次々と着て行った。
そして、着替え終わるや、露台へ出て、翼を背中から生やして飛び立った。
坂守神社に飛ぼうとして――ふいに力を失って地上に降り立った。
塔のある敷地から出てすらいない石畳の上で、くうは蹲る。
思い出してしまったのだ。
潤がくうを見殺しにした夜を。血の海にくうを捨てて行った潤の背中を。
あの瞬間の、世界中の希望という希望がまやかしなんだと錯覚したほどの絶望を。
(ほんとに行かなきゃって思
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