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『自分:第1章』
『生誕』

[2]次話
大阪府大阪市大正区平尾。

古い2階建の建物に、コンクリートの階段、手すりというよりは鉄格子に近い感じ。
2階の端っこの一室。

昭和59年の冬、零那は其処で産まれた。

物心ついた頃は3歳。
姉が就学前の5歳だったから。
兄は8歳。
既に不良だった。


母親は、毎日毎日、酒を飲み、極道の妻達を観ている。飲んでいない時は、ティッシュ箱や広告の裏に名前と住所を書けるようにと練習させられた。
此処は治安が悪く、暴力団や暴走族が多いから何かあったときの為に。
でも、御飯や風呂も、してくれた記憶が無い。
オムツも自分で履き替えていた。
今で言う育児放棄、ネグレクトだったんだろう。


父親は暴力団の人だった。
毎日毎日、朝早くに出て夜遅く迄いなかった。まともに喋った記憶は少ない。
そして、父親の友人と名乗る人が、たまに来ては100円を握らしてくれたり、銭湯に連れて行ってくれてた。


10円の紐飴、それと水道水。
それでなんとか生きていた。


兄が家にいた記憶は無い。
父親と話したくても帰ってくるのは深夜。
玄関先で『まっ!』と言って帰ってくる事は知っていた。

けれど、起きてる事がバレると母親に怒鳴られるのでコッソリ父親を眺める。


兄は居ない。
既に家庭崩壊は起きていたんだろうと思う。


母親とは、字や数字の勉強の時、酒のツマミを買いに近所の商店街に行く時以外、話すことは無かった。

勿論、遊んでくれた事も無く、玩具を貰ったりした事も無かった。

相手にされることなく、ただただ、その日が終わるのを待つだけ。
毎日がその繰り返し。


1度、姉とコッソリ抜け出して、隣の家にピンポンダッシュをした事がある。

そこの人が勢いよく怒鳴り込んできた。
母親にも怒鳴られた。


理不尽だ。
構ってもくれないくせに。


子供ながらに『不信感』は在っただろう。
だから母親のことを嫌いだったんだろう。


母親に、もう何も求めてはいなかった。
遊んで貰うことも、ギュッとして貰うことも、御飯作ってくれることさえも...
何も、望んでは駄目なんだと悟っていた。
[2]次話


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