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トワノクウ
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第十夜 吟変り(四)
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グで、外に出なければならないほどの重大事があるのなら、抜け出すもやぶさかではない。

「私がこんな状況なのも踏まえて、今?」

 イタチはしきりと首を縦に振る。
 くうはため息を落とした。あきらめるしかない。

「分かったわ。外に出るから、ちゃんと事情を教えてね」

 イタチは喜色を愛嬌にしてふりまき、くうの前に立った。先導している。

(私もまだまだね。自分から窮地に立つなんて)

 くうが縁側に出ると、イタチがびゅおっと消えて、また現れる。背中にくうのブーツを背負っていた。くうは手すりを越えて境内に飛び降りてブーツを履いた。

 視線の先には、神社に面した暗い森がある。人の出入りを拒む濃密な闇に怯えることはなく、むしろ気分の高揚を自覚していた。

「カマイタチだって忘れてた。妖怪は便利ね」

 イタチの背中を撫でる。イタチはくうの首で襟巻になった。すると肌を裂く極小の竜巻が起きる。くうは両手で顔を庇って踏ん張った。
 竜巻はすぐに止んだ。そっと腕を外すと、そこは境内ではなく森の中だった。

「っ!? 〜〜っもう驚くもんかっ」

 任○堂とかでこんなシステムあったもん。だから不気味じゃないもん。
 くうが懸命に己に言い聞かせる間に、イタチはくうの肩から下りて森の中に駆け去った。

「え、置き去り!? くう一人こんな土地勘のないとこでどうしろと!? やっぱ死亡フラグだったわけ〜〜!?」

 やーやー騒ぐくう自身の声だけを拾っていた耳が、別の音を拾った。
 忍び笑い。低く色めいた男の声が奏でるそれ。

 誰ですか、とか、()()()()()()()()()()()を聞いたりはしなかった。

「貴方があんな手間をかけて私を呼び出した張本人ですか?」

 くうは楽研で鍛えた耳を澄まして、返答を待った。

「驚いたね。この状況下にあって問うべき本質を見誤っていないとは」

 後ろだ! くうは身を翻し――そこに佇んでいた者に、息を呑んで思考を忘れた。

(なんてきれいなひと)

 巨躯の鴉天狗を従えた一人の男。筆舌に尽くしがたい美しさだった。それは、月にきらめく()()金の髪や、調和した肉体線によるものではない。男の中には色香と透明感が矛盾なく共存していた。

 声を発せずにいるくうに向けて、男は手を差し伸べる。

「俺は梵天――おいで。君を迎えにきた」



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