第一部
第一章
二人の仕事(1)
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配給が終わって小一時間ほどが過ぎた頃。広場に集まり歓談に耽っていたみんなも散り散りに自分の居場所へと帰り、ミレアたちも最後に俺に向かって『遅刻はもうダメだよ!』と念を押してまで忠告してから帰宅の途に着いた。とは言っても、頬をふくらませていたミレアの表情や楽しげに広場を走り回っていた時の三人の表情が脳にしっかりと焼き付いているあたりは、やっぱり俺自身も楽しかったんだろう。今も俺の目の前にその三人の姿があるかのように……みんなの楽しそうな様子が目に浮かぶかのようで。
俺は配給の品物が入っていた箱を両の手に一つずつ引っ提げつつ、さっきまでの賑やかだったこの広場に思いを馳せた。今はすっかり人気も失せ、草木一本生えずに荒れ果てた褐色の土に覆われた広場があるだけの寂れたこの世界を狭く顕在化したような場所にすぎないけれども、週に二・三度は欠かすことなくここに宿る確かな生気。活気というにはあまりにも貧相で弱々しくもある小さな小さな集会に過ぎないけれども。でも、確かにここには理想に一歩近づいた世界の復興の種が根付いているような気がした。
ひょんなことから始まる平和だってあるかもしれないじゃないか。
それが、俺の小さな希望だった。
「……よっと。」
俺は最後の空箱をいつも通りに、広場の端にひっそりと数棟連立する木小屋の中へと運び終え、ようやく一息ついた。さっきまで配給の品が所狭しと並んでいた場所へと戻り、トタンの台の上に腰かければ、すっかり静寂に支配された広場に生ぬるくそよぐ風が吹き抜けていく。スモッグに覆われた薄暗い空と荒廃した広場のコントラスト。見事なまでな静けさと物寂しさ。人の動きという動きはほとんど感じられないこの空間で、俺は一人何らかの自分以外の生を探していた。
……ああ、静かすぎて落ち着かないね。この辺りに美羽がいるはずなんだけれども。
ちょっとあたりを見回してみるが、やはり人っ子一人見当たらない広場の静けさにはよくわからない焦りを感じさせる雰囲気がある。ちょっと奥のほうまで眺めてみても人の影は見当たらず。どうやら美羽も今はこの広場にはいないようだ。
どこ行ったんだ?あまり一人でそこら辺をうろうろされても困るんだけどな……。
この荒廃した街を、少女がひとりでに歩いていて安全なわけがない。俺はくるっと首を回して、後ろを振り返ってみた。そして、そのゼロコンマ数秒後。
「ばぁ!」
「うおおおッ!?」
突如として視界を塞ぐ見慣れた幼顔と、言葉の意味通りに耳をマッハで走り抜けていく大声量が、俺の心臓にダブルで鋭いパンチをかましていく。あまりに突然の幼顔と声に、俺は腰を落ち着けていたトタン台から飛び退き、瞬速で後ろに後退いてしまった。
なんだなんだなんなんだ……。
飛び退いた直後、高ぶる心臓を抑えつつバッと振り返ったそこには……。
「ん、恭夜。びっ
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