第一部
第一章
二人の仕事(1)
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けが無事に逃げ切って、美羽だけがそんな連中に捕まりでもしたら。そのとき、さぁ俺はどうする?死を覚悟で突っ込むか?それとも、何もできずに美羽が汚らしい連中に犯される様を眺め続けるか?挙句の果てに首筋を掻っ切られて、ぐらぐらと揺れ動く首から鮮血を撒き散らす美羽を抱きかかえて、その美羽の鮮血にこの身を染めながら狂ったように喚き叫ぶか?
火を灯す薪を持つ手に力がこもる。鳥肌が立ち、膝がぐらぐらと揺れ動くような、膝が崩れそうな感覚が俺を襲う。
だから……そうなる前に、そんなゴミどもを見つけたらば逃げるしかないんだ。今はまだ。
ゴミどもがいなければ、腰を落ち着けて無言、微動だにしない人間のほとんどは貧困層の希望を見失った人たちだ。病原菌にやられた人間なら、俺たちが応急処置をしよう。希望を見捨てた人間ならば、俺たちが話し相手になろう。死して地を這う人間ならば、俺たちが安寧を願いつつ弔おう。
美羽が提案し、一人でにやり始めようとした絶望への抵抗だ。希望を繋ぐ、俺たち流の絶望への抵抗。絶望がこの世界を包括しようとするならば、希望を人々に与え続けるしかないじゃないかと美羽は行動を起こした。
ついていかないわけにはいかないじゃないか。恩人のような美羽が、そんな危険なことを一人でやるなんて言い出したらさ。それに俺だって世界が絶望していく様子をただ眺めているだけしかないなんて、そんなことを考えている間は気が気じゃあなかったさ。
そんなときに美羽が言い出したそんな一言。俺の希望のような一言だった。何かをしなければならないと、常日頃から思っていた俺に行動を起こすきっかけを与えてくれた。美羽の行動の発端が、俺のこの世界への希望を見出す最初の一歩だったんだ。
夢の世界へどっぷり浸って、夢の世界の再現を夢見る前からこの世界への希望を見出そうとしていたと。そのことに気付いたのは、つい最近のことだった。
俺たちは近場に座り込んでいた一人の男性に近づいていく。頭髪は抜け落ち、骨と皮だけの四肢はさながら武者を連想させる姿。落ち着いてゆっくりと話しかける。
「こんにちは。」
「……」
返事はない。こちらを見上げる様子もない。動こうとすらしない。でもこれが普通だ。返事を返してくれた時がむしろイレギュラーだ。諦めずに、今度は美羽が話しかける。
「大丈夫ですか?」
と、小さく微笑みながら、美羽は小さな手で男性の肩に触れた。と、次の瞬間。
「ッ!?」
美羽が手をかけた肩骨付近がパリッと音を立てながら崩れ落ちた。瞬間、擡げていた男性の首がゴキッと鈍い音とともに首から外れ、固い地面にぶつかり砕け散った。ギリギリ身体全体を支えていたバランスが、美羽が方に触れたことで崩れてしまったのだろう。わずかに残った頭皮と一部の骨、歯だけが唯一完全な形状を保ち、地に転がる。スカスカの骨は僅かな衝撃で粉
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