第一部
第一章
二人の仕事(1)
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、小さな布鞄を一つ掴んで持ち上げた。その振り向き様の一言。
「ああ、十二分だ。」
俺も膝に手をしっかりと押し付けて、体を前に倒すようにして立ち上がった。美羽と同じように、俺の背後にいくつも積み重なっている布鞄のうちの一つを無造作に引っ掴んで首から引っ提げると、重いとは言わずとも確かな重みが肩骨を圧迫した。
準備とも言えないような準備。でも大切な持ち物。さぁ、用意はできた。
「行こうか。」
「……うん。」
弱々しい響きだけれども、力強い美羽の返事。俺はひとつ頷き、そして俺たちはまた歩き始めた。今日来た道を辿るようにして……。
………
……
…
比較的に暖かい今日だけれども、空はどんよりとしてさっきよりも若干スモッグが濃くなったようにも見える。陽の光が覗くような隙間もなければ、いつもならスモッグすらも僅かに透ける陽の光ですらほとんど見受けられない。道行くにはまだ十分な明かりでも、辺りは非常に薄暗い。一歩一歩を踏みしめて歩く俺たちの行路を邪魔するかのように散乱する瓦礫の破片や木くず、石ころも用心を怠れば突っ掛かかってしまいそうになる。
「美羽、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。」
何度も何度も通っている道ではあるものの、この暗さだ。なにが原因で転ぶかもわからない状態では用心を重ねるに越したことはない。
俺は足元と前方を交互に見澄ましながら、なるべくゆっくりと歩いた。
……ひどい行路でも、ゆっくりと時間をかければ大したことはない。目的地には如何程もしないうちに辿り着いた。周囲の見通しはいいが、なにぶんこの暗さだ。見渡そうにも、ひどく先の様子までは詳細に窺えそうにない。
でも見える範囲での様子は、前に来た時と状況はあまり変わっていないらしいな。パッと見ただけだから正確な感覚はつかめていないけれども、たぶん大した変化はない。
喜べばいいのか、否か。状況が悪化していないだけましと捉えるのか、こんな状況に置かれた人間が無数にいること自体をそもそも負と捉えるべきなのか。
多分、どちらの感情も正しいんだとは思う。喜ぶべき場所とそうでない場所がある。この世界でもあっちの世界でも……多分上流階級の奴らだってそうだろう。喜びと負のベクトルの違う感情は、誰もが同じように感じて然るべき感情だ。どこに喜びを見出すか。どこに負の感情を感じるかは人それぞれだとしても、その感情を忘れた人間は……。多分、もう何をしても無駄なんじゃないかな。忘れたのならば思い出させるしかないが、それも適わないのならば……。俺はそいつを助けることは、もうできない。
俺は周りをぐるっと見渡す。
……ここにいる人たちだって、例え喜の感情を忘れていたとしてもきっかけさえあれば見出すことはできるはずなんだ。絶望に触れすぎて、そういう感情も忘れ去ってしまっている人たちが蔓延りす
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