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Eve
第一部
第一章
二人の仕事(1)
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も多少は美羽の軽い手助けくらいはできたのかなと、内心ひっそりと安堵し、ちょっとした喜びに満たされていた。
「ああ。」
そのことにちょっとだけ気を良くした俺は、片腕を腰に当てながら美羽の頭をポンポンと軽く叩いた。
「……でもなんか、恭夜くんに慰められるの。へんな気分。」
「え。ひどくね?それひどくね?」
俺の言葉が心に響いたのかと思いきや、さっきまでの弱々しい美羽とは打って変わって、突然の闇発言。美羽の体勢はさっきと変わらずに頬を腕につけてこちらを見ている、ちょっとかわいらしい感じのポーズだというのに、言うことは闇を纏い、容赦なく俺の心を打ちつけてくる。
「……ん、いつもだけど。」
細まった美羽の目。声のトーンも少し下がった。
「あのあのあの。もっといやなんだけど、その情報。」
俺の心に突き刺さる悪言の数々。俺はいたたまれずに美羽と同じように手すりに額を打ち付けるように倒れ伏し、そして一つ溜息をついた。
うぅむ……この仕打ち。病みだ。
「でも。」
「……?」
美羽のぼそっと呟いた言葉。俺は顔を横に向ける。でも美羽は俺と目があった瞬間に、パッと顔を伏せて。
「……ありがと。」
「……」
そう一つだけ呟いた。それから美羽は顔を上げようとしない。伏せっぱなし。しばらくお互いが無言で、俺もそんな美羽の様子を見て、特に何も言わずに美羽の方をただ見ていた。
……美羽のやつ。素直じゃない分、もう適わんよ。
俺はもう一度だけ。美羽の頭に手を乗せて、ポンポンとさするように叩いた。
……それからしばらく、俺たちは次の仕事に向けて英気を養った。ようやく顔を上げた美羽と他愛のない話をし合ったり、なにとなくしりとりをしてみたり。やらなければいけないというわけじゃない。無理に理由付けをするならば、ただ心の掃除のようなもので。だって次の仕事では、桁違いの身体的精神的疲労が待っているから……。
配給が終わってどれくらいの時間が経っただろうか。それどころか、休憩し始めてからどれくらいが経ったかもよくわからない。時間による行動の制限というものが、この世界には日が落ちたか否かでしか存在しない。特に必要もない。正確な時間の計測なんて、そんなことをする必要性もなくなってしまった世界で今どれくらいの時間が経ったかもよくわからないでいる。
そろそろ、いつも通りに次の仕事に移る頃合いだろうと。俺たちでさえ、その程度の感覚さえあれば十分だった。
「美羽。」
「……ん、わかってる。」
名残惜しいがそろそろ時間だ。そう美羽に告げようとした俺だが、告げるまでもないことだったか。美羽はさっきまでの無邪気な笑い顔から一転。少し大人びた微笑みを浮かべて、ゆっくりと立ち上がった。
「恭夜くんは、大丈夫そう?」
美羽は今まで自分が座っていた古ぼけた長椅子の後ろに置いてあった
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