第一部
第一章
二人の仕事(1)
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俺の方をへと顔を向ける美羽だけれども、伏せった腕から少しだけこちらを覗く顔はやっぱりどこか愁いを帯びているようで……。俺もしばらく押し黙るしかなかった。
あれだけ精力的に今日の配給をこなしていたのに、今になってこんな風に思うなんてな。今のこのご時世で、俺たちの行動は少なくても正義に傾く行動だとはわかりそうなもんだけれども……。
でも、そう論理的に言うわけにもいかず。俺はコホンと一つ、小さく咳ばらいをかました。
「……まぁ、そうだな。」
咳払い一つ、俺は美羽の頭に軽く手を乗せた。
「ん……」
美羽はこっちに向けていた顔をすすっとまた、腕の間に隠してしまった。それでも俺は美羽の旋毛辺りから髪の先端に向けて撫でるように、途中からしなやかな美羽の髪に指を通すように一回。二回と撫でた。髪に指を通しても俺の指に抵抗もなく、スッと流れて美羽の顔から腕にかかる。
「確かに、この世界を変えられる行動かって聞かれたら、そうとは言い切れないかもしれない。」
「……うん。」
小さく、消え入るような美羽の声。俺はもう一度、頭をなでつける。
「でもさ。さっき広場に集まったみんなの顔を思い出してみろよ。」
「……かお?」
腕に押し付けられているであろう美羽の口元から、もごもごとした言葉が聞こえてくる。美羽の頬が膨らんだり縮んだりを繰り返していた。
「そうそう。みんなの顔。広場に集まってくるみんなのさ。」
「……」
しばらく押し黙る美羽。俺は美羽の頭の上から手をおろし、そのうちに少しだけ。美羽のもっと近くまで寄った。
「……ミレアちゃんが怒ってた。」
「そっちじゃないんだな、これが。」
「……ミレアちゃん、ぷんすかしてた。」
「だからちげーっての。」
「?」
美羽は心底不思議そうな表情を、腕の横から覗かせる。
この天然めが……。
「あー、じゃあさ。美羽がミレアにりんごを渡してあげたとき、ミレアどんな顔してた?」
「……」
その質問に、また美羽は押し黙る。いや。このくらい、考えなくても思い出せそうなもんだけど……。
「……笑ってた。」
「だろ?」
俺はもう一度だけ美羽の顔をじっと見据え、その頭の上に手を乗せた。
「でも、それで十分じゃないか?」
「……」
「俺たちが美羽の家の物資を配給して、それでいつものみんなが喜んでくれる……」
美羽から視線を外し、眼前には広く淀んだ空と消え入りそうな灯火に包まれた街。この街のどこかできっとミレアも今日の配給に来たみんなも、今日の配給の果物や水を大切に食べて飲んで、きっと明日を生きる糧を備えてくれているはずで。
「ほら、十分だ。」
「……ん、そっか。」
美羽はどことなく気分の和らいだような声で、さっきまでのような言いようのない不安の入り混じった小動物が鳴くような弱々しい声ではなく。俺自身
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