第一部
第一章
二人の仕事(1)
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。巨大な住居群と小さな倉庫、河川、荒地、炊事場、中央通り。その至る所に灯る、火の灯火。どこの誰が灯している火なのかは当然わからないけれども、その誰かがどうして火を焚いているのか。ただの明かり取りか。暖か。それともその小さな灯火を肴に自分の過去を顧み、現状を想い感傷に耽るのか。いや、自分を想い耽るだけじゃないかもしれない。人を想ってその影を灯火に重ねるのか。そうでもないのならば、煌びやかな灯火に煌びやかな富裕層の生活を思い描き、自分をその像と重ね合わせて一時の楽しみを見出すのか。
「……」
富裕層の営みか……。そうだったな。
俺にはもう一つ、ここに来る理由があったわけだ。あまり見たいもんでもないが。
視線を貧民街から少しだけ逸らせば、俺の眼前。この街のど真ん中。放射状に広がる幾本もの大通りの伸び元に威風堂々と権力の行使を物語る、一つの巨大な建築物がここからの眺めの中でも一層目を引く。この貧相な街に相応しくない様相をしたそいつは、昼のこの薄暗い世界の中で煌々と明かりを灯し、微細粒子を孕んだ暗雲を煌びやかに照らしつける。見ればわかる。可動式のスポットライトが雲をなぞり、聳え立つバベルが雲をも突き抜けそうな様はまさに金と権力で叩いた張りぼての不撓不屈の権化。
一際巨大な建造物は並大抵の事象は恐るるに足らんと語っているかのようで。そんな中央シェルターが俺たちの眼前に聳え立っていた。その煌びやかな煌めきと一際強い灯火が、町全体だけではなく天をも染め上げる様は貧困層と富裕層とを分け隔てている、今のこの現状をこの上なく示唆しているかのようで……。あまりにくたびれた街の様相と荘厳で煌びやかな中央シェルターとのどこまでも相反する様は、まさに二つの層が相容れることはないと如実に物語っていて。
ふと左隣に突っ伏していたはずの美羽だが、いつの間にやらその小さな顔を上げ、俺と同じように眼前を見据え、何か想いに駆られているかのような表情を俺たちの街に向けていた。数日ぶりに見た、こんな美羽らしくもない険しい顔つきは、この世界にもまれ続けた心の闇の産物かと。そんな風にさえ思えた。
「……ねぇ恭夜くん。」
「ん?」
唐突に美羽が口を開いた。視線はそのまま街の方へと向いたまま、言葉だけを俺の方へと向けて。
「……ボクたちのやってることってさ。」
「……」
「意味が、あるのかなって。」
でも、言葉少なに数言だけ言葉を紡ぐと、美羽はまた顔をうつ伏せてしまった。パッと見ただけの美羽の横顔はどことなく憂いを帯びたような、少し困ったような表情をしていて。さっきまでの元気そうな美羽の面影もなくて。
「急にどうしたんだ?」
だから俺は美羽の顔色を窺い、そう問い掛けるだけで精いっぱいだった。
「……ううん。」
「え?」
「ただ、ちょっと気になっちゃっただけ。」
ちょっとだけ
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