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Eve
第一部
第一章
二人の仕事(1)
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「ぼく、もうへとへとだよ……」
美羽は展望デッキまで至る最後の石段を登りきると、操られるようにふらふらとボロボロのデッキの石柵に凭れかかり、柵に顔を伏せた。
疲れたんだろう。かくいう俺も、この石段をただ登っただけでもう相当に疲れた。配給の時の疲れもあったとしても、こちらの疲れには到底及びそうにもない。
俺も美羽と同じように石柵に凭れ、腕を預けるが顔は伏せず。眼前に広がる光景をボーっと眺めた。
ここもなんとなく久しぶりに登った気がするけれども、まぁこの展望デッキに凭れる腕の感覚には慣れたもんだ。ほぼ毎日のように俺たちが登っている場所な上に、登るたびにここに凭れかかっているからな。
日頃からいつものように通ってしまう、特に特別な思い入れのある場所というわけでもない。ただ俺たちがあの場所で配給を初めて、一番最初の疲れを癒した場所。それがここだったってだけだ。あの時から俺たちがここを訪れるたびに出迎えてくれる、良い見晴らしと比較的に澄んだ空気が俺たちの心に身体を癒してくれるってのが、ここに通う一番大きな理由なんだろうと思う。
「……」
視界に広がる、巨大な一つの街。日々の変遷が、ここに来る度に手に取るように見渡せる。
誰がこしらえたかもよくわからない、この俺が立ち凭れ、美羽が凭れ伏せる展望デッキ。遥か前に先人たちの憩いの場所として設けられてとも聞くが、真偽のほどはわからない。だけれども、ここからの眺めの全てはこの街の全景。ここからならば、この街の全てを遠く見渡せるんだ。
……ここに来る二番目の理由は俺の目の前にある。限りなく一番に近いもう一つの理由。ここから人々の様子まで見渡すことはできないけれども、俺たちがどのような環境で今日明日を生きているのか。ここから、この街並みを見据えることで日々の街の変遷に想いを馳せ、どのような日々の生の営みがこの世界を支えているのか。どのような苦心の中に俺たちは生への執着を見つけられるのか。自分の考えを整理し、今後の世界。俺の生き様を考えられるのならば、それもここに来る理由としては十分だろう?
今日はこんな変化があったと気付けたときには、様々な思いが交錯し俺の心を満たす。いいとは言えない想いだったりもする。でも、それでも日々進歩後退を続けるこの世界を見据えていると、まだこの荒廃に荒廃を重ねた世界でも必死に生にしがみつき、絶滅という絶望から抗い足掻いていることを如実と実感できて……日々の街中の様子を見ているだけでは得られない、この世界への微かな希望の糧になるような気がして、俺はここへと通い詰めることをやめられずにいるんだ。
止める理由もない。身体の疲れなどそんなもん。このデッキが俺にもたらす福音の一つにも勝らん、些細な問題だろ。疲れた身体はここで癒せばいいんだ。心も癒せれば身体だって癒せるんだ。
俺の目の前の光景
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