第一部
第一章
二人の仕事(1)
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こうぜ。」
話の腰を折りつつ、軽く美羽の背中を押す。
うむ。自分でも惚れ惚れするほどにわざとらしいやり方。普通ならば確実に気付くであろう話の腰の折り方なのだけれども。
「あ、うん。そうだね。」
……案の定だった。美羽は特に抵抗することもなく、俺に押されるがままにゆっくりと前へと歩き出した。
いや、相も変わらずちょろい。流石に今回は一言のもとで美羽からの了承を得ることはできないだろうなと思っていたけれども、これも単純明快な思考回路を持つ美羽のなせる技なのかと。
とりあえず俺は引っ切り無しに沸き上がってくる負の思考連鎖を断ち切り、いつもの場所へと行くための広場の出口へと歩みを進める。美羽もどことなく納得がいかないなって表情をしているが、そこは単純な美羽のこと。やがていつもの様子に戻り、黙って俺の横を追従し始めた。
広場を抜け、俺がここに来る時とは反対側の出口には、また同じように苔生した石段が続いている。細い路地裏の両端にはどこまでも高く聳え立つ住居群が立ち並び、時折突出した住居から落ちてくる木材や瓦礫の破片を食らわないように細い道筋をたどる。足を滑らせないようにということも同時に念頭に置いておけば問題ない。
「恭夜くん、ここ滑る。」
「そりゃ苔生えてるからな。」
「……ん。」
何を当たり前のことを言っているのか。もう慣れっこだろうに。
俺は後ろを追従する美羽の方をチラッと見遣るが、妙にムスッとした顔をしていること以外は足取りも軽そうな様子。
別に怪我をしているわけでもなさそうだし、何をムスッとしているのかははたして謎だが……まぁ、大丈夫だろう。
俺たちは路地裏を抜けて大通りを横切り、また同じような路地裏を抜けて大通りへと。さらにまた裏道へ……。しばらくそんな調子で街の中心地から外れていった。
やがて何度かそんなことを続けた先に見えてきた、非常に急な傾斜を持った坂のような階段。要注意どころだ。足を踏み込む幅も小さい上にここもまた茶色く変色した苔が生している。一度足を滑らせればどこまで転がっていくかわからない。
「今日もちょっと滑りそうだね……」
「ま、気をつければどうということはないさ。」
そうだ、気をつければ何と言うことはない。
俺たちはゆっくりとその先に待つ『いつもの場所』へと歩を進めた。
………
……
…
あれからどれほど歩いたか、特に意識もしていなかったもんで数分と言われれば数分な気もするし、数十分と言われれば数十分と納得できそうな気もする。急な石段を上り詰めた先に待っていた、俺たちが『いつもの場所』と勝手気ままに命名した、俺たちにとっての安息の地とも言うべきか。非常に見晴らしのいい、この街の端に堂々と雄大なその姿を晒す丘陵。その上の石造りの展望デッキに俺たちは立っていた。
「ふぅ、ようやっとだ。」
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