第一部
第一章
二人の仕事(1)
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て黒ずんだ肌という肌は黒く茶色く腐り、腐肉と血の入り混じった黒腐汁を垂れ流し、組織という組織は生きながらに腐り落ちていく。黒汁を垂れ流す部位は肉を引き裂き、焼き焦がすかのような激痛を伴いながら、発症すれば最後。発狂し、体中の組織が壊死し死んでいく。眼球も腐り落ち、臓物は腐汁に溢れ、穴という穴から漏れ出る。その間、僅か二週間。だが一週間は死の恐怖に打ち震え、やがて恐怖を忘れ、痛みに悶え続ける期間は1週間にも及ぶ、恐怖の病原菌だ。発症後の死が約束された病原菌。
唯一、希望だと言えるかどうか甚だ疑問ではあるが、感染してから発症する確率が低いこと。それだけが救いだった。感染しても発症はしない割合は、俺が見てきた感染者たちで考えると90%近く。発症してしまえば待つ未来は恐怖の死だが、発症さえしなければ何事も無く生き続けることができる。もしもこの病原菌の発症率が100%だとすれば、もうこの貧民街から人間は消え去っているだろうしな。
ただ他の病原菌と比べても比類なき恐ろしい感染能力を持っていることもあって、患者の数は減ることはない。事実、世界中の人間がこの病原菌を起因とする感染症によって、隔絶されたこの世界から姿を消した。生き残った人間のほとんどがよせ集まったこの街も、すでに貧困層の全員が感染していてもおかしくはない。ただ発症していないだけで、感染した身体に発生して然るべき抗体も、免疫力の極端に低下した貧困層の人間には無縁の存在だった。
患者は発症するまで、自分が感染しているかどうかを知ることはままならない。劣悪な衛生環境と最悪な生活環境がもたらした、病原菌による死者の増大。
……まぁもっとも、この病原菌が発生してしまった時点で、この病原菌に因る死者の増加は止められることではなかった。この感染力じゃあ、きっとどうすることもできなかっただろう。
俺たちは腐汁の強烈な腐臭が鼻を突くこの場所を、ゆっくりと通り過ぎた。
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