第一部
第一章
二人の仕事(1)
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々に砕け、欠片を美羽の足元。俺の足元まで飛ばした。
一際大きな破砕音が木霊した通りを、やがて静寂が包み込む。
重しを失った頸椎は自分の役割を全うし終え、安心したかのように温い風にその全体を晒した。美羽の手が触れ、皮と骨が崩れ落ちた際に形成された陥没穴からは、小さなウジがくねくねと何匹か蠢いている様子が伺えた。
「……もう、死んでたんだな。」
美羽はゆっくりと男性の肩に置いていた腕を引き下げる。
「……気づかなかったよ。」
俺たちは両手を体の前で合わせて小さく一礼し、二人黙祷を重ねた。この世で死がその身と魂を別つまで苦しんだのだから、来世ではきっと多幸な人生を授かるようにと願いを込めながら、俺たちの小さな祈りは二者と一人の死者の間で駆け巡った。
「……」
やがて、俺たちはゆっくりと目を開け、顔を上げる。目の前には、さっきまで生きていると疑いもしなかった人間の疑いようもない屍のその姿。死に晒したその姿は、もう動くこともなく……。
「行こう、美羽。」
「……うん。」
俺たちはその場を去るしかなかった。
……いくら毎日のこととはいえども、人の死に出くわすのはやはり心にくるものがあった。
その場を離れ、再び俺たちは広い大通りの右寄りを歩く。どこを歩いても人とは出くわすもんで、端に寄れば寄るほど人の密集率は高くなるけれども、俺たちはあくまで真ん中よりも少し端寄りってほどのところを歩く。人が多すぎても、一対二で話しかけることがほとんどだ。あまり密集しすぎていると人に襲われた時に危ないから、俺たちは用心してその位置を敢えて歩く。
でも、道行く先々で目に留まる人の殆どは死に絶えているのもまた事実で、餓死。姦死。失血死。自殺したものも殺されたものも、病原菌に侵され死んだであろう人間ばかりだ。この通りも生きている人たちの方が圧倒的に少なくなってしまっていた。
……やばいかもな。
周囲の様子を見て改めて思う。確実に病原菌の脅威はこの世界を包み込もうとしていた。死の伝染だった。
病原菌による死……。今、この世界に蔓延している病原菌。名前もよく分かっていない、対策すらも講じられることはない。対策を考えることができるような人間も、もうこの貧民街にはいない。
ただ日々の経験則から、いくつかわかっていること。もしも感染し発症してしまったのならば、まず助かる可能性はないと諦めるほかにないという、途方もなく理解し難い、理解したくもない現実だった。でも、これだけは確実なことだった。
経過はまず頭髪が抜け落ち、肌が黒ずみ始めるという自覚の効く症状から始まる。この時点でもう、患者の死は確定する。抗えない死の定めを感染者は知ることになる。感染者が恐怖に打ちひしがれ狂気に走る者も後を絶たない現状も全て、自覚症状がはっきりしているということが起因していると思う。
やが
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