よんてんご。
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「───敵艦見ゆ、なのです」
広大な海面上を疾風のように駆ける一人の少女の姿がある。彼女の名は『電』。可愛らしい外見にまるでそぐわないその厳しい名を、本人は気に入っていた。
『自分には威厳というモノが無い』
姿形だけの話ではなく、精神的にも、単純な強弱の面でも欠けている。それが電の自己評価だった。そんな彼女にとって、ただの名称であったとしても『電』という響は魅力的に思えた。性能としては、同駆逐艦級の『島風』や『雪風』らにはどうしても劣る。精神の面でも自分よりも強い者などいくらでもいる。ならばせめて名前ぐらいは。ほんの少しでも自分を強く見せたい彼女にとって、『電』という文字は誇り高いものだった。
だが、そんな顕示欲もとうに失せてしまった。そんなものを示せる相手は、もうこの鎮守府には居ない。誰も彼も居なくなってしまった。……いや、違うか。
「まったく、おかしな人が来たものです」
あの殴り飛ばしたくなる顔を思い出して苦笑する。これではダメだ。戦場だというのに集中できていない。
「帰ったらお仕置きなのです」
敵艦がこちらに気付いた。数は4。
一瞬にして視界は砲火の嵐に包まれる。人間が乗組員であれば有り得ない反応速度。慣れ親しんだ生と死の境界線が見えてきた。
「さて、久々で少し緊張しますが───」
一発でも貰えばタダでは済まないだろう砲撃の合間を、踊るように縫って進む。動きに淀みはない。勢いは加速していくばかりだ。気分は上々。空気の焼ける臭いに血が沸騰させられる錯覚。一瞬後に海に沈む敵艦と、空に燃え尽きる自身の妄想。脳髄が弾け飛びそうな興奮に、彼女はようやく目を覚ます。
「電の本気を見るのです」
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