第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第三節 月陰 第五話 (通算第15話)
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かせる艦隊戦力は一切なかったからでもある。基地司令官といえども、駐留艦隊への指揮権はないからだ。
「土産のつもりですかな……?」
「いや、彼は恐らくこちらに参加するつもりはないだろう」
ヘンケンがブレックスの顔色を窺う。コーウェンを直接知らないヘンケンからすれば、真意は見えにくかった。しかし、ヘンケンにとってはそんなことはどうでもいいことだった。これで、〈グラナダ〉にブレックス直属の機動艦隊が発足するのである。そして、先日、新兵とはいえ、パイロットも補充されてきている。あとは、現行の《ジムU》ではなく、新型のモビルスーツが欲しいところだ。
「もし、彼が本気で我々に参加したいと思っているなら、アナハイムにモビルスーツも作らせているだろうさ」
「モビルスーツは手に入らないのでありますか?」
「いや、手に入ることは入る」
ブレックスの歯切れが悪い。なにか厄介な事情があるらしかった。しかし、ヘンケンにとってはモビルスーツが万が一手に入らなくとも、基地に配備されている《ジムU》が搭載可能であるのだから、それで構わなかった。戦争は兵器の性能差だけで勝敗が決まるのではない。どちらかといえば、数が欲しかった。それに、駐留艦隊のサイド自治政府軍にも協力者はいない訳ではない。
「ならば結構です。受領はいつになりましょうか?」
「二月十日を予定しているが……」
「では、私の艦を一足先に拝ませていただくとしましょう」
「構わんよ。受領後、グラナダに戻ったら昇進だ」
「私は中佐のままでよいのですがね」
立ちながら、苦笑してみせる。それは、ヘンケンなりのリップサービスだった。ブレックスにはそれがよくわかる。用意周到なブレックスの指令書を受け取りながら、いまはモビルスーツのことは深く聞くまいと決めて、部屋を辞した。
「ジオン共和国のモビルスーツか……大胆な手だよ、コーウェン……」
官僚畑のジョン・バウアーではこうは考えないだろう。噂に聞く、ティターンズの新型モビルスーツ開発に対抗してアナハイムが躍起になっていることを利用する筈だからだ。話から考えればジョン・コーウェンはジオン共和国にもパイプを持っているということになる。彼を迎えて、組織内での派閥闘争はしたくなかった。
司令の執務席に腰を下ろし、タバコに火を点けると、照明を落とし、静かに〈グラナダ〉の夜を眺めた。
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