第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第三節 月陰 第四話 (通算第14話)
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グラナダ市街見物を終えたカミーユとランバンが基地に戻ろうとしたのは夕方六時を過ぎていた。変化する空模様は映像である。天井が巨大なスクリーンになっているのだ。月面恒久都市というのはどれも似た様な構造である。階層に判れ、職業毎にコミュニティを作って暮らしている。民族的なコミュニティは少ない。
ハイウェイから基地が見える。グラナダ基地はグラナダ郊外――いわゆるクレーター外縁部にあり、いくつかの階層を貫いて作られている。いわゆる市街から見ると壁の中である。
「また明日からモグラ生活か……」
「嫌なら軍人やめたら?」
カミーユの返事は素っ気ない。地球連邦軍の軍事施設は民族、伝統、宗教から切り離すため、人工的な建造物に敢えてされていた。主要な部分は殆ど地下に建造され、人工光と機械質な風景で暮らす。これが地球連邦軍の軍人の姿であった。
宿舎の入り口には「地球の平和を守ろう!」と書かれたティターンズの人員募集のポスターが貼ってあった。人気アイドルがティターンズの制服を着て写っている。表向きティターンズは全ての地球連邦軍人に門戸を開いている様になっていた。だが、カミーユもランバンも現実を知っている。ティターンズには余程のコネクションがない限り地球出身者しか入隊できなかった。アースノイドのアースノイドによるアースノイドのための軍組織なのだ。だからこそ、宇宙軍ではなく、地上軍からの移籍組が多いのだ。宇宙軍はどうしてもスペースノイド中心になってしまうからだ。地球出身の軍人は地球を離れたがらなかったのである。
「いつまでコレ貼ってるんだ?どうせ、俺たちには縁がないのにさっ」
「ホントだよな。だいたい、エリート組織ったって、何のエリートだか」
ランバンが揶揄するように言う。カミーユとランバンは士官学校といってもフォン・ブラウン校であったから、同窓では地球出身者といえばレドしか知らない。が、故に他の地球出身者――特に、教科指導官に多かった――との違いを知っていた。しかも、地球出身者の多くは名家や名門、政治家の子弟であり、軍務が政治家としての大きな票田に繋がるが故の入隊であることは既成事実である。
ティターンズが結成されたのは宇宙世紀〇〇八四年十二月四日。バスク・オム大佐の全地球圏放送でその設立が宣言された。「地球に真の力を再びこの手に取り戻すため」という演説は、地球の人々に拍手喝采を受けたのだ。ティターンズがエリート組織であるというのは、ある意味で本当である。地球出身者で一年戦争を生き抜いた熟練兵の多くティターンズに配属された。だが、現実には中枢を陸軍閥に占められ、宇宙軍や海軍、特に空軍は蚊帳の外に置かれた状態であった。いわゆるレビル将軍の戦死によって力をつけた非主流派のハイマン少将による策謀である。ハイマン少将はジーン・コリニー大将と結託し、旧レビル派最大
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