第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第二節 配属 第二話 (通算第7話)
[2/2]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
うものの方が安心できた。外界と遮断されている端末は、絶対に誰からも覗かれることがないからだ。だが、スタンドアローンクライアントは、先に官舎に送ってしまっている。手許にあるのはワイヤードクライアントだけだ。
「ほらよ」
「いらないよっ」
戻ってきたランバンが、コーラをカミーユに押し付けて、さっさと席に坐ってしまった。特に喉が渇いている訳ではなかったが、仕方なしにドリンクホルダーに収める。
「要らないって言ったろ?」
「旅は長いからな。その内、喉が渇くさ」
その時貰いにいけばいいじゃないかという声を飲み込んで、ワイヤードを巡回する。ランバンは、鞄から出した本の一冊を手に取った。古めかしい本に少しだけ興味を示すと、ランバンが照れくさそうに説明を始める。
「あぁ、これか?連合宇宙軍に配属になったことを伝えたら親父が送ってきたんだよ」
「オヤジさんが?」
「そ。俺には本を与えときゃ喜ぶと思ってるのさ」
「関心を持ってくれてるだけでもいい親さっ」
カミーユにとってランバンの両親は『いい親』の代名詞だった。連休の度に、会いにきたり、長期休暇にはスペースバスのチケットを送って寄越したりしてくれることは、羨ましいことなのだ。だが、当のランバンは親を煩がっていた。
(所詮、無い物ねだりなんだよな……人間って)
こういう時、何故かファのことを思い出す。恋人とかガールフレンドというよりも、幼なじみとか従妹という感じだった。だが、カミーユにとって母親という存在は希薄だったから、ファは何かとお姉さんぶったことも事実である。
「どうしてるかな……」
「誰が?」
「ファさ。ランバンも知ってるだろ?」
「あぁ、ファ・ユイリイな?付き合ってなかったのか?」
「そういう関係じゃなかったし」
そうかぁ?という疑り深い目を一瞬して、直ぐに本に視線を落とす。カミーユがひとりの世界に入っていったからだ。こうなると周囲の声が届かないことをランバンは知っていた。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ