トワノクウ
第二十七夜 あをにあし(一)
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だかお母さんを思い出します。お母さんもよくほっぺた触ってくれたんです」
梵天は意表を衝かれたようであった。初めて梵天を驚かせた。くうはくすくす笑った。
「分かりました。くう、明日になったら、露草さんと話してきます。きっとそういうものだって分かりましたから」
くうが出て行ってから、梵天はくうの頬を撫でた自分の手を見下ろした。
お母さんもよくほっぺた触ってくれたんです
(君の癖が移ったかな、萌黄)
かつての帝天。非業の天女。鴇時には「ちとせ」と呼ばれていた女。千歳萌黄を思い出す。今は一児の母、他の男のもの。
(俺も未練がましい上に悪趣味だ)
今夜は、走狗と呼ばれて、彼女と共に在った日の夢を見そうだ。
「露草さーん、露草さーん」
次の日の朝。くうは一人、露草を探して森の中をほてほて歩いていた。
狭間の森の妖はくうに危害を加えない、と事前に梵天から保証されている。天座の客分として周知徹底しておいたから、と。
おかげで小妖怪に行き会うたびに、「天座の雛」と呼ばれて、時には敬意を込めて挨拶される。くうはそのたびに、あたふたして頭を下げるのだ。
「もうっ、どちらにいらっしゃるんですかねえ」
「ここだよ」
頭上からの声にぴゃっと飛び上がる。仰げば、木の枝に腰かけて憮然とこちらを見下ろす露草がいた。
「よかったです、お会いできて。お話ししたいことがあったので」
露草は一拍置いて木から降りて、くうの正面に立った。
「昨日のことだろ。言っとくが今でも俺はあれが最善だったと思ってる。いくらお前に何を言われようがな」
くうは力なく笑う。鋭い上に機先を制された。
「そうですね……くうもあれ以外には思いつきません」
頭を下げる。
「だから、ごめんなさい。くうを助けるために危険を冒してくださったのに、怖がったりして」
頭を上げる。露草は驚いているようだった。
ここでくうは、露草をさらに驚かせるであろう質問を投下した。
「一つだけ聞かせてください。あの村人さん達が妖だったら、露草さんは殺せましたか?」
露草は返答に窮した。その所作からくうは全て読み取った。
――できたか、否、できはしない。憎むのも殺すのも、人間だったから露草はためらわなかったのだ。
「そう、ですよね、分かります」
くうは神妙に同意した。
「くうが露草さんの立場でも同じように考えて、同じ行動をします。そういうことなんです」
「お前――」
「たくさん傷つけ合って、分かり合えなくて。でも、全然救いがないわけじゃない。露草さんと
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