トワノクウ
第二十六夜 芹摘み、露分け衣 (二)
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いるだけで、天座のお役にも立ててませんし、仕事らしい仕事もしてなくて……自由すぎてこわいんです。だから、勉強や部活の練習に追われてた彼岸なら、こんなこわい思いしなくてすむんじゃないかって。考えたとたんに、急に、あそこのことを思い出して……ほんとは、か、帰りたいなんて、思ってないくせに」
くうはそこで大きく深呼吸した。
「ごめん、なさい。変なこと言ってますよね。気にしないでくださ」
「帰りたくないのか?」
見上げた花色の両目は、嘘やごまかしを許さないまっすぐさで。
幾重にもくるんだくうの本音を、容易く剥ぎ出してしまう。
「帰りたくないわけ、ないじゃないですか」
くうはいささか乱暴に、露草の胸板におでこをぶつけた。今の表情を見られたくなかった。
「おうち、かえりたい。おとうさんとおかあさんに、あいたい」
背中に大きな掌が回った感触がした。恐々と、という感じだ。なんだか、笑えた。
雨の中、木の下、異性に抱き寄せられるというシチュエーションなのに、くうが考えていたのは、父と母がいる我が家のことばかりだった。
雨がやみ、落ち着いたくうは、露草と共に山の上の学校へ到着した。
校庭には誰もいない。この時間なら学童が遊び回っているはずなのに。代わりに、農民らしき男が三人ほど、校庭の隅からじろりとこちらを見た。
くうは露草と顔を見合わせて首を傾げた。
校舎に向かい、玄関前に立つ。戸には鍵がかかっていた。
「いるか、不良教師ー!!」
くうももう慣れた、露草のいつもの呼びかけ。
しばらくして戸が開いた。出て来たのは平八だった。
「露草、くう! ちょうどよかった。ちいと上がってくれ。芹がまた面倒なことになったんだよ!」
「芹ちゃん……?」
くうは露草と共に平八に招かれるまま校舎に上がり、現代で言う宿直室のような和室に通された。
和室にいたのは、菖蒲と芹。
当の芹は部屋の角で膝を抱えて座っていた。
芹は平八が戻って近づくや、平八の服の袖を掴んだ。
「いらっしゃいませ、篠ノ女さん。ですがご覧の通り、今日は貴女の相手をする暇がありません」
「何があった。外にいた人間、関係あるのか」
「芹が前にいた村の人間が来ました。ここに芹がいるはずだから出せ、とね」
くうは、はっとする。芹は村を脱走した身だと話のついでに聞いたことがある。
「わざわざ芹ちゃんを迎えに来た……ですか? それっておかしくありませんか?」
近くに逃げたならともかく、ここは芹のいた村から遠く離れた寒村の山の上。そんな手間をかけてまで、村娘一人を連れに来る労力を農民が割くものだろうか。
これには菖蒲が、溜息一つを前置きに、
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