暁 〜小説投稿サイト〜
翅の無い羽虫
終章 また会えましたね
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い。
 そんな気がする。
 あのとき初めて、信じてこなかった奇跡という神様を心から信じられたかもしれない。

 しかし、そんな奇跡もリアルで、私の数年しかない余命はあと僅かとなった。だけど私は病院には行かず、改築した家でずっと本を読んでいた。一度焼却されたとはいえ、やはりここの部屋が落ち着く。
 最後に読んだ本は確か「白痴――旅をする少年――」だった。
 私はなんだか懐かしい気分になり、その本は大切にした覚えがある。身体が弱くなる上、その本も分厚かったのか、読むのにかなりの時間を要した。
 生まれたときから病弱で、知的障害のあるアルビノの少年が縛られた病院から抜け出して旅をするという話。どんな困難に遭っても諦めず、しかし楽しそうに前を向いて頑張る姿は勇気づけられた。最後は感動する内容だった。
 その本を読んで思い出した。紅い眼は古くから鬼の児として畏れられた忌まわしき眼。だけど、もうひとつの言い伝えがある。紅い眼と白い髪は堕ちた神が変異した人間だと。ただの言い伝えだが、私は、それを信じる。だって……
 実際に神様を私は見たのだから……
 本を読み終えたとき、私は立ち上がり、窓を開ける。
「…………」
 空は寒気立っていた。しかし、今から射してくるであろう太陽はきっとこの冷えた街を温めてくれるだろう。私は傍の椅子に力尽きたかのように座る。
「……もうそろそろ、迎えが来るみたいだな……」
私はその本を片手に静かに眠った。28年の歳月は決してつまらないわけではなかった。
 窓から差し込む夜明けの朝日が、眠る私の身体と微笑んだ顔を優しく撫でる。

 ――――また会えましたね、ミカドさん――――

 どこまでも無邪気で、楽しそうなあいつの声が聞こえた気がした。

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