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翅の無い羽虫
終章 また会えましたね
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済んだ。そして不思議なことに死亡者はひとりも出なかったんだ。一体なんだろうね」
「! アマノとセイマは無事なんですか?」
「ああ、とっくの前に退院したよ。銃弾の跡が残ったけど、十分に元気だよ」
「……よかったぁ……」
 安堵した私を見て医者は微笑む。そして医者は話を戻す。
「そうだ。あと、撃った弾がなぜかかなりの空気抵抗を受けたかのように減速して落下したっていう怪奇現象も起きたらしい。まぁそのおかげで君も生きているわけだが」
「どこ情報ですか?」
「新聞だよ」
「それ読ませてくれませんか?」「昨日ゴミの日だったから……」
「……今日の分は?」「読んだが、さっき理学療法士の知り合いに貸しちゃったから」
「……」
「いや、ほんとすまない」
「……現場に誰かいなかったんですか?」
「誰って?」
「ほら、白髪の紅い眼をした若い子とか」
「……? そんな現実的にいなさそうな目立つ人はいなかったが」
「……?」
 どういうことだ?
 あれは幻だったのか? にしては鮮明だった。
(それに、あいつがそこにいなかったら、あの訳解らない現象はどうやって起きたんだ)
 私は黙り込み、顔を少ししかめる。
「……どこか心当たりでもあるのかい?」
「……いえ、何も」
 考えたって仕方ない。私は後で考えることにした。
「それよりも問題なのは両国の首相が降伏したどころか、協定を組んだらしいんだよ。お互い敵同志だったのに、どうしたものか」
「あの、ちょっといいですか?」「うん?」
「お見舞いに来た人っていますか?」
「それはそうだろう。だとしたらそこにある何かの小さな袋なんか元々ないはず……あぁ! しまった!」
 医者は何かを思い出したのか。思わずガタッと立ち上がった。同時にコキッと腰辺りから骨の鳴る音が聞こえたのは気のせいだと信じる。
「どうしたんですか?」
「そうだった、すっかり忘れてた」
「だからなんですか?」私は少し呆れた顔になる。
「……今朝病院の廊下で黒いコートのようなものを来た人と会ってね、その人はフードを被っていて顔が良く見えなかったんだが、『ミカドさんが元気になったら教会に来てほしいと伝えてください』とその人に言われたんだ。その袋をその人が持っていたんだよ」
「……ほんとにっ?」
「いやぁすまない。その人があまりに影が薄かったから印象に残ら―――ミカド君?!」
 医者の叫ぶ声が聞こえるが、私は無理矢理にでも体を起こし、その薄く小さな袋を持って病室を急いで出た。

「はぁっ……はぁっ……」
 今は午後の2時。あいつが病室に来てから凡そ6時間は経っている。その場所に未だいるのかはわからないが、とにかく今は急いでいくしかない。
 患者服に裸足で走る女性の姿は周りの人には不思議そうな目で見られていることだ
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