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翅の無い羽虫
十章 自由への本能
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、怯む。だが、化物は呻きながら口から触手を銃弾のように高速でその大国人に向けて撃ち放つ。
『……ゾンビ野郎が』
 憎たらしげな口調で呟き、拳銃で向かってきた触手を粉砕させる。そしてもう一発、頭部を撃った。
「ア、アァア……ヴァアアア……」
 力尽きたのか、化物はふらふらと千鳥足になり、彷徨うように、しかし行き先を目指して入口へと向かう。
『しつこいなぁおい』
 ドォン! と足を撃たれる。その場に倒れ、しかし両腕で身を起こす。
 銃声が二回響く。両腕に穴が空き、再び床に口づけをする。
 それでも、その人とはかけ離れた醜い顔を日の差す入口へと向ける。
『こっち見んじゃねぇよ気色悪ぃ』
 そして顔面を撃たれる。今度こそ倒れた化物からは音ひとつしなくなった。
『……し、死んだのか?』
 ひとりの兵が呟く。それが聞こえたのか、拳銃をしまいながらその大国人はつまらなさそうに言う。
『死んでねぇよ役立たず。まぁギリギリってとこだろうが、すぐ回復する。ま、しばらくは暴れないと思うがね』
 生き残った兵は僅か5名。殆どは血肉の塊となってしまった。
 ひとりの兵が化物の身体の異変に気が付く。
『局長! 化物から何か音が……』
 すると、触手や隆起した筋肉、腫れあがった血管や皮膚はピキピキと収縮し、萎んだ人型のぶよぶよした肉塊と豹変した。
『やけにふやけているな……なんだ突然』
『まるでエイリアンだ』
『……それを背中から破ってみたまえ』『はっ』
 局長の命令に従い、ナイフを用い、慎重に背中を切開する。すると、中には綺麗な女性の体躯が胎液のようなものとともに入っていた。それを2人がかりでずるると取り出す。
『これは……化物になる前と同じ……』
『脱皮、か。生命危機を感じて、宿主だけでも完璧に再生させたのか。てことはあの醜い姿は、鎧の役割をしていたのかもな。ま、罪人が無傷である以上、どうでもいいことだが』
 局長はつまらなさそうにそれを見下し、煙草を取り出す。
『そいつを布で巻いて動けねぇように鎖とかで縛り付けろ。で、他の局に連絡し、この悲惨な地獄絵図を元通りにしておきたまえ』
 煙草の煙はただ真上へと漂う。

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