九章 発症と処理
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の……知るわけがないだろ」
「生きてるってことは死んでるってことなんですよ。生まれたときから死というレッテルが貼られてるんです。共存するはずの事象が拒絶されているのは可笑しいことですね」
「あ、当たり前だろ死ぬのを拒むのは! んなことより早く助かる方法探さないと―――」
「―――なんだっていうんですか?」
「……っ!」
その声は相変わらずあっさりとしたもの。だがそれは、微かに冷たさが含まれていた。
「何かを犠牲にしてまで生きたい。それはわかります。ミカドさんの症状からして死に方も結構残酷な苦痛を味わいそうなので嫌なのもわかります。醜くても情けなくてもいいからとにかく生き続けたい。それもわかります」
さっきと言ってることが違う。何言ってんだこいつは?
「……? じゃあなんで」「ですが」
言葉を遮る。そして言う。
「なんで死にたくないって逃げてるんですか。何も知らないのに、なんで嫌うんですか」
「…………」
その意味は私にはわからなかった。しかし、表情は変わらずともその声はなんだか悲しそうだった。
「死にたかったら生き続ければいいです。けど、生きたかったら死ぬことを受け入れてください。それを解らないと言って、怖いと言って逃げてばかりじゃ、すぐ死にますよ」
「……じゃあ、おまえは死ぬのが怖くないのかよ」
私は腹から思いを搾り取り、掠れたような声が出る。
「わからないです。なにもないのが怖いのも、死ぬということも、生き続けるということも、縛られてはわかろうにもわかりません」
イノはミカドの目を見て、
「だから、自由を選ぶんですよ」
「……自由……?」
自由の為に生きる、ということなのだろうか。だが、本人の純粋愚直な思いの深層は霞んで見えないままだ。
「あ、そうだ、核落とされてから4日ほど経ちましたね。なのにこの国って放射線対策するだけで被災地の人のことなんかはほったらかしなんですね。ある意味凄い神経してますよ」
皮肉に聞こえる言葉だが、どうもこの人が言うと褒め言葉に聞こえる。
しかし、突然の話題の切り替えに調子が狂う。私は先ほどまでの思考を放棄し、今の言葉を返す。
「この国は人が多すぎるんだ。減ってくれたら万々歳なんだよ」
「確かに多すぎますね」
「昔はなによりも人の命を最優先してたそうだ。大切な物よりも、他の生き物よりも、地球よりも、俺ら人間を大事にして、ギリギリまで延命して、増えても尚、増やし続けた結果が今の状況だ。大事にしすぎて壊れてしまうなんて、本末転倒だよな」
自由気ままに話すこいつと一緒にいると、焦る気持ちが薄まり、日頃の本音を曝け出す。いや、もう諦めているのかもしれない。
「それで同属を大切にしないってのも変な話ですなぁ」
「確かにな。人間って思想を頑なに主張する割にちょっと
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