六章 出会い
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そうに感想を述べた。何故そんな楽しそうなのか。
「おねがいがあるんですけどいいですか?」
「は、はい……?」
私は一歩引き下がりながらも話を聞いてみる。
「おなかすいたので何か食べ物恵んでくれれば幸いですね。ありがとうございます」
いやもう確定かよ。こっちまだ何も言ってないよ。
コートのポケットに手を入れてみる。そこには入れっぱなしだった財布が入っていた。
(突然家を飛び出したから無いかと思ってた)
となれば、近くの販売店にこの子を連れて食べさせるか。
しかし、私は殺人を犯した。一応死体はベッド下に隠しておいたが、あの部屋のありさまだったら怪しまれて、やがてその死体を見つけるだろう。そうなって指名手配でもされたら、家どころか町にさえ戻れなくなる。最早店どころではない。
だが、この子に対し財布と携帯以外何も持っていない私にできることは店に寄って何かを買うことぐらいだ。でもそれはあまりにも危険だ。どうするべきか。
その子のおなかから腹の虫が大きく鳴る。それが私の良心に響く。
「あの、やっぱりだめですか?」
「え、いや、そういうわけでは……」
「ダメなら別に構いませんけどね」
よかったのかよ。この無垢な笑顔で言われる辺り、なんだか嵌められた気分だ。
「だって、ミカドさんもそういう余裕はないでしょうし」
「!」
私はその一言に怯んだ。なぜそんなことを言ったのか。
「さっき教会で必死に祈ってるのを見ました。気持ちはミカドさんほどわかりませんけど、不安定な身体と命に振り回されて弱りきっているのはわかりますよ」
そして、この人間は言った。
「せいぜい2日ですね。ミカドさんが人間のミカドさんとして生きられるのは」
耳を疑った。私の目は驚きで開いたままだ。
「……っ、なんで、あ、あなたにそんなことがわかる……」
しかしその白髪の若者は変わらぬ笑顔で自信ありげに言い放った。
「わかろうとしてるからですよ」
「……っ」
こいつは馬鹿にしてるのか。そんな理由で分かるはずがない。
「……バカにしてるのですか?」
精神的に参っている私の沸点は達しやすくなっていたが、それでも怒鳴りたい感情は抑えて、堪えるように言った。
「あれ、やっぱり理由になってなかったですか。えーとじゃあなんて言おう」
その場の雰囲気を変える、いや壊すようにその子は「んー」と考える。
「難しいし考えないでおきます。あ、そうだ、ミカドさんって男なんですね。しかも生まれつきじゃないってのがびっくりでした」
「なっ……!?」
さり気なくとんでもないことをこの子は発言した。
「えっ……な、ええ!?」
「? どうしたんですか」
「な……な、なんで、わかったんだよ」
私は戸惑う。
今会ったばかりなのに、初対面なのに。
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