残るは消えない傷と
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わせて漏れ出て来ないようにしていたから、安心して一つの場所を攻めていた。
袁紹軍の兵が櫓に追加で上らない様を見て、有り得ない速さの制圧だと、曹操軍の誰しもが認める。祭の弓術が敵兵に恐怖を刻み込んだのだと。曹操側は呉の宿将の名をその頭に刻み込み始めた。
しかし……彼女達は、麗羽が目立ちたがりであると思っていたが故に、その筵が金色に塗られて仰々しく、己が財力を示す為に張っているだけだと勘違いしていた。
高い櫓の上で、左翼が敵に蹂躙されながらも、櫓の周りにだけ自身の兵達が纏まっている様子を見た麗羽は優雅に微笑み、小さく、ほんの小さく言葉を零した。
「掛かりましたわね、おバカさんたち」
周りの兵達はその姿に見惚れる。
高貴にして気品のある含み笑い、自身の部隊の一つが崩され出したとしても自信に溢れ、変わらない主の美しさ。それは麗羽が率いる兵にとっては、何よりの鼓舞となる。
「どうして追加の兵が最上部に上らないのか、どうして未だに兵が櫓を守り続けているのか、教えて差し上げますわ。厄介な呉の宿将が次の櫓の制圧に向かい始めたようですし……ね」
ゆら……と手を掲げた。半円を描くように逆手で、優雅に、優美に。
麗羽はその手を斜めに振り下ろしながら、大きな声で、魏呉同盟にとっては絶望の指示を高らかに放った。
「下賤なモノ達に白銀に煌く安息を差し上げなさい! 勇ましく、華麗なる我が臣下達よ!」
金色の旗が振られた。バタバタと音を上げ、大きく左右に振られた袁の牙門旗の合図を受けて、全ての櫓に張られた筵が次々に落とされていく。
それの側に寄った霞も、二つ目の櫓群に狙いを定めて射を行っていた祭も、小さく疑問には思っていたのだ。
何故、櫓の兵を落とし、上がりもしないというのに、その周りにだけ兵が重厚に群がっていくのか。
逃げるならばもっと広い場所に行くだろう。高い櫓を倒されるを恐れてか。それとも……祭という遠距離に於ける脅威を櫓に乗せさせず、制空権を取られない為か。
彼女達は迅速な櫓制圧を選んだ為に、浮かんだ疑問を抑え、対処を部下達に任せて自身が一番必要とされている事態を優先した。それは先陣を切る将としては当然であるが……戦全てを掌握するには不足であった。
横に長く広く配置された陣容は伝令の伝達を遅らせる。
敵の策を抑える為に、軍師がいる方に軍師が当たるは必然。兵とは隔絶した武力を打ち崩す為に、将がいる所に将が向かうもまさしく正しい。名のあるモノが飛び抜けた力を持つこの世界で正道とも言えるその隙を突いたのが、袁家の二大軍師であった。
「なっ……」
唖然。曹操軍も、孫策軍も、どちらもが予測など出来ていなかった。
敵左翼の抑えをしていた郭嘉でさえ、それにまだ気付けてはいなかった。
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