第三部龍州戦役
第四十九話 盤面は掻き乱れたまま払暁を迎え
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堂中佐殿は有り難くもそこに飴玉を転がして来ただけだ。
「帝族であり、最高司令官である東方辺境領姫殿下と云う武勲を得る為に大博打を打つ機会をお譲りします、と。」
藤森はあからさまにうんざりとした様子だった。
「謙虚な御方だからな、馬堂中佐殿は。」
なんとも言えぬ口調で云うと、大隊長は溜息をついた。
「――逃げ足が早いとも言えるがな」
同日 午前第五刻 東方辺境領第21猟兵師団司令部より南東約一里
集成第三軍先遣支隊 支隊本部 支隊長 馬堂豊久中佐
砲声、銃声が入り交じり白煙が立ち上るのがよく見える。
――第三軍の主力も動き出したか。
「さて――後は我々と近衛の動きで全てが決まるわけだ。はっ!なんとも素晴らしいな」
心臓が痛いほどに脈打っている、足が今この瞬間にもつれないのが不思議なほど豊久の神経は張りつめていた。そっと口元をさすると北領で刻みつけた習慣で歪んでいるのが分かった。
――良かった、俺の最後の見栄は辛うじて守ることができている。
「――情報幕僚、軍主力の戦況を。」
「は、南部方面の敵部隊は第三軍主力部隊と交戦しております。戦況は、第三軍が既に二個大隊を壊滅させ、優位に立っている模様です。師団司令部護衛部隊からおそらく騎兵だと思われますが一個大隊程が近衛浸透突破集団方面へと向かっております、恐らくは第一旅団本部の壊滅に勘づいたのかと」
「――導術、各部隊に伝達、こちらもはじめるぞ」
同日 午前第五刻 東方約一里
近衛浸透突破集団 第五旅団本部
「第三軍の突破を待つべきだ。本営まで突出すると各個撃破の的にしかならない」
美倉准将は此処まで彼らを連れてきた凶相の少佐に向かい合っている。
「少佐、我々は既に敵の抵抗線の司令部を壊滅させたのだ。後は第三軍先遣隊の支援を行い、後退すればよい」
――臆しているのか、旅団本部を潰した戦果で満足しましたもう結構ですとでもいうつもりか?
対する新城直衛は仏頂面のままそれを真摯に聞き流し、言葉を発した。
「我が方面の旅団は防衛線を縮小しております。
既に敵軍に浸透を勘づかれている以上、我々は退く事も留まる事も出来ません。
何故なら上級司令部は我らが進む事を決定しており、
友軍達は既に我々の呼応を信じ、行動をしています。
彼らが築く血河と屍の山をも踏み越えなければこの戦いで積まれた全ての屍の意味が失われるでしょう。
彼らは祖国を信じ健気を示しました。陛下の軍たる我らは彼らの健気に答えなければなりません」
不自然なほど饒舌に述べる新城に美倉は不自然なほど無感情に尋ねる
「貴官は――そうして兵達を引き連れてより深き血河を渡り屍の山を踏み越えるのか。」
無能ではないが凡庸で見るべきものは無いと周囲から評さ
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