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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十九話 盤面は掻き乱れたまま払暁を迎え
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皇紀五百六十八年  七月十九日 午前第三刻半
〈皇国〉陸軍南方戦域 集成第三軍司令部
集成第三軍戦務主任参謀 荻名中佐


「先遣支隊本部からの報告を確認したな?」

「騎兵師団の事か、既に龍州軍司令部と第二軍に伝達した。後は向こうしだいだな。
師団規模の対応となると軍単位で動くことを考えねばならん」
寝不足気味の為か血走った目をした情報参謀の長隈が目を瞬かせた。
「――だが、少なくとも近衛の主力銃兵が浸透突破集団に加わっている以上、我々が反攻の主力となる事は決定事項だ。こちら次第で向こうもやり口を変えるだろう。騎兵の支援には龍兵が投入された場合、砲兵が無力化されてしまう。そうなったら集成第二軍はもたんだろう」

「だが、ここで旅団本部を潰せたことは大きいのではないか?
払暁の攻勢の優位を得られたと見るべきだ。第二軍が<帝国>軍の反攻に耐えられなくとも、此方が一気に敵本営を占拠すればまだ勝ち目はある」

「いや、まだだ。敵師団司令部を潰さなければ危険だろう。昼の攻勢で我が軍の正面部隊は防衛線を縮小している。現状では師団の直轄予備部隊を投入し、遅滞戦闘を行いながら師団司令部の下で統制を取り戻すのも難しい事ではないだろう――それに、向こうが予定を変更したとすれば龍兵にまた火力を潰されて今度こそ終わりだ」
 最も龍兵の被害を知悉している兵站参謀の答えに荻名は顔を歪めた。
「やはり、成功しても一気に突破しなければならんのだな・・・・・・」

「――結局のところ、海岸堡さえ抑えれば勝利は決定するのだがな。龍州軍司令部から先の報告に関する何か連絡は来ていないのか?」
 長隈情報主任参謀が土屋次席参謀に確認をする。
「はい。現在、龍州軍は砲兵部隊の一部を我々第三軍の補充に充てておりますので、当面は後方支援と予備部隊として戦闘参加は見合わせるそうです。全体方針としては矢張り我々が海岸堡まで突破する事に注力し、龍州軍から一個旅団を予備隊の増強として集成第二軍の後方に移動させるようです。第二軍は軍の再編と平野部における防御陣地の増強にとりかかっていましたが、やはり日没後の作業ですから効果はさほど期待できないかと」

「第二軍も厳しいか。銃兵師団に加えて騎兵師団まで投入した反攻だ。にわか仕込みの防衛線では焼け石に水だ」
 長隈が舌打ち混じりに云う。
「流石は〈帝国〉陸軍、戦力差は圧倒的だ。砲兵隊が健在なら海岸堡を抑えた後に龍州軍と合同で予備師団ごと包囲できたのだがな……」

「やはり先遣支隊が師団司令部を抑えてくれれば、となりますな」

「贅沢を言う暇はない、閣下が仮眠を済ませるまでに方策を形にせねばならん。
先遣支隊から情報が届いているのだ、昨日よりも機先を制する事ができる。
明日の勝利は今我らの肩に乗っているのだぞ
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