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剣の丘に花は咲く 
第四章 誓約の水精霊
第一話 プレイボーイ
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はずだっ! 苦しかったはずだっ! と……だけど……士郎の声は穏やかで、穏やかすぎて、その内心を図ることが全く出来ない。

「彼女達は俺にはもったいなさすぎる程だった。強く、優しく、美しく……俺よりも、余程……な」

 微かに士郎が笑った気がした。

「ルイズ……俺は弱いんだ」
「え? 弱、い?」

 唐突に自身を弱いと言った士郎に、ルイズが意味が分からないと、動揺した声を上げる。
 ルイズの余りにも動揺した声に苦笑いしつつも、士郎は話しを続ける。

「ああ。『全てを救う』、『正義の味方』になるなんて言ってもな。救えなかった人がいたことも、事故や戦争を防げなかったことも何度もあった。全てが終わった後、生き残った人に手を伸ばすしか出来ないでいた……俺一人の力なんて高が知れている」

 何気なく士郎は手を顔の前にやる。手は闇の中に消え去り、目には闇しか映らない。

「そんな自称『全てを救う正義の味方』をな、支えてくれたんだ」

 目を閉じる。思い出すのは、ここへ来る前に出会った彼女達のこと。

「時に叱り、立ち上がらせ。時に殴り、地面に叩きつけ。時に語り、手を引き導く。時に抱きしめ、ぬくもりを与える……彼女達には頭が、上がらないな」

 戦場で出会った者もいれば、長い付き合いの者もいる。予想外の出会いだったり、懐かしい出会いだった時もあった。
 思わずふっと口元に笑みを浮かべると、ルイズが疑問の声を上げた。

「彼女、()?」
「……ん、ああ。彼女、()だ」

 士郎が話の中で、彼女ではなく、彼女()と言ったことに違和感を覚えたルイズが疑問の声を上げると、士郎はこともなげに答える……とんでもないことを。

「その、なルイズ……俺はどうやら、一人の女性を選ぶというのが出来ない口らしく……そういうことだ」
「へ? ……ぇ……っええええええええええっ!!!!????」

 士郎のとんでも発言にルイズが素っ頓狂な声を上げる。
 未だ奇声を上げ続けるルイズに、士郎が声を掛ける。

「どうも、な。誰か一人を選ぶことが出来なくてな。……だから最初に言っただろ。俺はルイズに相応しくない男だって」
「え? でも、え? だって、ええ?」

 混乱から抜け出せず、闇の中ウロウロと歩き回るルイズに士郎は近づくと、軽いルイズの体を持ち上げ、ベッドの上に移動させた。

「へ? え? あれ? し、シロウ?」
「だからな、ルイズ。こんな酷い男は止めておけ。ルイズくらい可愛ければ、もっといい男が幾らでも寄ってくるさ」

 士郎に抱えられ、ベッドの上に下ろされたルイズは、手足をバタつかせ、ますます混乱したが、士郎がルイズの頭を撫でながら言った言葉を受けると、段々と落ち着いた様子を見せていく。

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