第四章 誓約の水精霊
第一話 プレイボーイ
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数に勝るアルビオン軍を打ち破り、トリステインの市民から“聖女”と崇められるほどの人気を得た王女アンリエッタは、現在行われている盛大な戦勝パレードが終わり次第、戴冠式を行うことになっていた。
戴冠には市民だけでなく、枢機卿マザリーニを筆頭に、ほぼ全ての宮廷貴族や大臣が賛同していた。
隣国のゲルマニアは渋い顔をするも、アルビオンの侵攻軍を打ち破ったトリステインに否とは言えず、渋々と皇帝とアンリエッタの婚約解消を受け入れた結果、アンリエッタは……自由を手に入れた。
喜びに満ちあふれた凱旋の一行を、中央広場の片隅でぼんやりと見つめる敗軍の一団。その中に、日焼けした浅黒い肌の精悍な顔つきの男がいた。
ルイズの“虚無”で炎上沈没した巨艦レキシントン号の艦長、サー・ヘンリ・ボーウッドである。
「“聖女”……か」
ボーウッドは眉間に皺を寄せ、睨みつけるかのような目で凱旋する一行。その中で一際目立つ馬車に乗っている者を見つめる。思い出すのは燃え盛る艦隊。あの時レキシントウ号の上空に輝いた光の玉は、見る間に巨大に膨れ上がると、艦隊を包み込み……撃沈させた。
「あれは……何だったんだ?」
あれは、本当に何だったんだ。……艦隊を撃沈させた光は、どういう原理か、誰一人として殺すことはなかった。
艦が地上に落ち燃え上がったことから、落ちた際の衝撃や火災による怪我人は出たが、光による死者や怪我人が出ることはなかった。
「ふうぅ……」
いくら考えても答えが見つからず、頭を使いすぎたことから溜まった熱を吐き出すかのように溜息を吐いたボーウッドは、凱旋の一行から目を逸らす。
「何れにせよ、世界は荒れるだろうな」
枢機卿マザリーニは自身の隣で沈んだ顔を見せる主君に気付く。
「ご気分が優れぬようですが。どうかされましたか?」
「即位は……しなければなりませんか?」
喘ぐような苦し気な様子で返事をするアンリエッタ。
「……あなたは決断した。これがあなたが選んだ結果です」
「こんなことを選んだ覚えはありま――」
「わがままを申されぬなアンリエッタ陛下。あなたが選んだ覚えがなくとも、選んだ選択の結果が王となること。こうなることがわからなかったのは、ただあなたが先を見通す目を持っていなかっただけのことです」
「っ」
俯き、両手を強く握り締めたアンリエッタは、涙が浮かぶ目で左の薬指、士郎がアルビオンから持ち帰ったウェールズの形見の品を見つめる。
自分を玉座へと持ち上げることになった勝利……この勝利は敵に立ち向かう勇気を与えてくれたこの指輪の持ち主。ある意味ウェールズのものだ。
ならば、亡き父を偲んで王座を空位のままにした母の様に
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