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その魂に祝福を
魔石の時代
第一章
始まりの夜3
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無事だ」
 肉眼と心眼のどちらで見ても、生命に危険が及ぶ損傷はない。ゴロツキに抵抗した時にいくらかの擦り傷は負っているようだが、それらはすべて数日もあれば痕も残さず完治する程度のものだ。気絶した理由はやはり心理的なものだろう。……まぁ、ゴロツキに襲われた挙句、愛犬がいきなり化け物になればショックを受けて当然か。
(となると、もうひと手間いるか)
 この忠犬が捨てられるのは、あまり良い気分ではない。ため息と共に魔法を行使する。
「大丈夫ですか?」
 一応念のため傷を魔法で癒してから――ついでに法衣が普通の服に見えるように魔法で細工してから――軽く揺さぶり飼い主の女性を起こした。
「え……? あれ、私は……」
 寝ぼけたように目を瞬かせる彼女が、正気に戻る前に告げる。
「すみません。ウチの犬が驚かせたようで……」
 何もいない空間を軽く撫でながら、俺は言った。彼女にはそこに黒く凶暴な顔つきの大型犬が見えているはずだ。それは、幻惑魔法の一種だった。
「あ、いえ……」
 しばらくその空間を見つめ、彼女は納得したように笑った。
「確かに驚きましたけど……。お陰で助かりましたから」
 そこで思い出したのだろう。彼女の顔から血の気が引く。
「あの子は!? あの子は大丈夫ですか?!」
「ああ、その子なら平気ですよ。ほら」
 子犬は恐る恐る飼い主を見上げていた。彼女は、その子犬を抱き上げ、抱きしめた。
「良かった。本当に良かった……」
 心からの安堵。涙声になっている彼女を見やり、ホッと一息つく。これでいい。これであの魔物とこの子犬が彼女の中で結び付く事はないだろう。
「ありがとうございました。お陰で私もこの子も助かりました」
 あなたが気絶した原因は俺にもあります。念のため病院まで付き添いましょう。そう言った俺に首を振って見せてから、彼女は笑い、そして深々と頭を下げた。
「さてと、あとは後始末だな」
 彼女達を見送ってから、残ったもう一人……つまり、彼女に絡んでいたゴロツキに視線を動かす。こちらも、重篤な傷はない。そろそろ目を覚ますだろう。妙な事を言いふらされたら面倒だ。それに、少しばかり反省してもらう必要もあるだろう。
 治安を守るのも、魔法使いの仕事だった。
 ……――
「くそ、くそ、何だってんだよ! あの女、妙な化け物使いやがって!」
 語気も荒く吐き捨てる。全く腹立たしい。女のくせに自分に逆らうなどと。しかも、あんな化け物を連れているなんて。
「警察は何やってんだ! あんな化け物を野放しにしとくなんて職務怠慢だろ!」
 口汚く罵りながらも、胸中では別の事を延々と繰り返していた。
 一体、この屈辱をどう晴らせばいいのか。簡単だ。あの女を徹底的に痛めつけてやればいい。二度と自分に逆らえないように。欲望に火がついた
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