第二話
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まったのだった。
「……で、メニューウインドウ、出せた?」
ありきたりな悪役が浮かべるような不敵な笑みで、少女がそう囁く。途端、オーバーヒート寸前だった俺の脳内がボフンという嫌な音を鳴らした。
そろそろ内気圧が限界のようだ。早く決着をつけなければ、また数十分前の二の舞になってしまう。
俺はかすれかけた思考回路でそう確信すると、この空気を打破するため、そして少女の嫌味な囁きに返答をするため、ほぼ無意識下の中なんとか言葉を捻り出した。
「……出せたよ」
が、出てきたのは自分でも驚くほどか細い声だけで、それによって羞恥のレベルが上がらないわけがなく、結果として俺は脳内ボイラーに油をブチ込むはめになってしまった。
警報機がビービーとけたたましい轟音で危険を知らせている。
もうだめだ。逃げよう。
とうとう本能までもがそう囁くと、俺はくるりと少女に背を向けた。そのまま前方に重心を寄せ、バランスが崩れる寸前を合図に全力で走り去ろうと、左足を踏み出し――
「……こ、今度こそは逃がさないから……」
少女のうめき声にハッと我に返る。
どういうことだろう。最後の記憶では例の少女から走って逃げ出したはずだが、もしかして追いかけてきたのだろうか。
が、現実はそんなに甘くはなかった。
右手首になにやら熱を感じる。例えるなら、数分放置して水分と熱が抜けたやわらかい蒸しタオルが巻き付いているような、そんな感触だ。
深呼吸を一つ。まず落ち着こう。この正体を確かめるにはそれ相応の覚悟と平常心が必要だと思われる。確認はその後だ。
俺は一つどころか三つ四つも息を吸っては吐き、吸っては吐きを繰り返し、ようやく簡単な計算ならできるくらいの精神状態まで回復すると、嫌な予感をひしひしと感じながら、右手首を確認するため恐る恐る後ろを振り返った。
――蒸しタオルの感触がしたところに、少女の手が覆いかぶさっている。もっと言うと引っ張られているような。
ああ、そういうことか。少女との距離が全くひらいていないのは、走り出す寸前のところで少女に手を掴まれていたからだったわけだ。手を引っぱられていたから……手を握られていたから……
理解すると同時に、俺のボイラーはとうとう限界を超えた。
「……落ち着いた?逃げたくなるのはわかるけど、お詫びの一つもさせてくれないっていうのはないと思うな。あたしは」
「アハハ、ソーデスネ」
「そりゃ、確かに煽っちゃったあたしも悪いとは思うけど……あ、いや!あれはあの時の無視のお返しだから別にいいんだよ――じゃなくて、あんたさ」
「アハハ、ソーデスネ」
「……とりあえず、まずは現実戻ってきてよ」
ギュウ
「いだっ!い、いだいいだい!」
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