第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第一節 前兆 第五話
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ふっと、ため息をついて、天井を見る。
十数年見慣れた天井がそこにあった。この部屋でカミーユとにワイヤードの使い方を教えてもらったり、一緒に勉強をしたものだった。
そんな日常が失われて、既に数年経っている。
(今日は妙にセンチメンタルな気分ね……)
何故だろう?
カミーユの居ない生活にもやっと慣れてきたと思っていたのに、(春だから……かな?)などと訳のわからない理由を自分に提案してみる。いや、そうではない。〈グリーンノア〉に忍び寄っている変化に自分が気がついたからだ。
カミーユが居なくなってからしばらくは、それほど変化は如実ではなかった。しかし、ティターンズの基地として〈グリーンオアシス〉が接収されてからは、日増しに変わっている。昼間のバス件だって、図書館の件だってそうだ。
そして、連邦軍と連邦政府の正体などという漠然としたものが、自分の中で言語化してしまったから、不安に感じてカミーユを求めてしまうのかもしれない。
ふと、画面に視線を戻すと、ディスプレイの右サイドにあるメール受信ランプが緑色に点滅していた。
「メール?」
ユィリイが驚くのも無理はない。今時ワイヤードにメールをしてくる人はほとんど居ないからだ。
機能としては旧世紀来、ついているし、一年戦争前ならば、使っている人も多かった。だが、ミノフスキー粒子が常用的に宇宙にまかれて以来、そういう習慣は一気に廃れた。電子メールなど、ミノフスキー粒子の影響でいつ消えてもおかしくないものだから、重要なことはリアルタイムで電話するかプリントアウトして郵送するのが普通だ。お陰で無線などという手段は消え去り、いまや携帯端末だって、ケーブルをつないでワイヤードにしなければネットワークに繋げることも出来ないのだから。
急いでメーラーを開いた。
だが、差出人の欄は空欄だった。
ウィルスチェックは通っている。不審なメールではない。なのに差出人がない……どういうことだろう。開けてみるしかないのか。ユィリイは少しだけ逡巡した。
メールには重要度が設定されていた。普通、そんな機能は誰も使わないし、使ったとしても、気づく人の方が珍しい。メールアドレスでは事務的な手続きも連絡もできない。基本的にはないのと同じなのだ。
(第一、アドレスを知ってる人なんて……)
使われないものは人に教えないし、教わりもしない。そもそもメールするぐらいなら電話をしてくる。
つまり、明らかに不審である。
一瞬開けることを躊躇う気持ちが勝りそうになった。が、開けてみなければはじまらない。不用意に開けてクライアントがダメになるかも知れないと思いながらも、引っ込みかけた勇気を振り絞って、メールと対峙することを決めた。
ーーカチッ
『ファ・ユィリイさんへ
ワイヤード上で、あまり自由なレポ
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