第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第一節 前兆 第五話
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た。
スタンフォーレのエレカは割とスポーティーだった。レンタルタイプではなく、自家車に違いない。エレカは個人で持つことを許されてはいたが、あまり持つ人は多くなかった。というのも、コロニー内ではいつでもどこでも安価に借りることができるからだ。持っているのは余程の金持ちか、改造したがる連中だけだった。その改造も違法すれすれである。
「教授」
「とりあえず、助手席へ」
反対側から開けられたドアから、スタンフォーレが声を掛けた。頷いて助手席に座る。
バタンとドアを閉めると、スタンフォーレがエレカを発進させた。
ギルバート・スタンフォーレ教授はイギリス生まれの生粋のアースノイドだ。近代史学の教授でもあり、どちらかというと親スペースノイドの立場であった。彼は豊かな髭と、厳しそうな顔をした初老の紳士でもある。市立グリーンノア国際大学に招かれて教鞭をとってはいるが、移民した訳ではない。偏見のない平等さと話の面白さ、毒舌さが学生の人気だった。
厳しいというのは、表情ではなく、強い意志をもった瞳が印象的ということであり、正体を見抜かれるかのような洞察力を持っている雰囲気があるのだ。
しばらくして街中に入ると、スタンフォーレはエレカをオートにして、ユィリイに話を促した。
「これを見てください」
フィルムペーパーを開いて渡す。
スタンフォーレは怪訝な顔を一瞬のぞかせたが、ユィリイのフィルムペーパーを再生し読み始めてくれた。読み進む内に愉快そうな顔をしはじめる。
「これは何処で書いたね?」
「国立図書館です」
事情を手短に伝える。
ふむふむと真剣な表情で頷き相槌を打つ。
驚いたりせず、落ち着いたスタンフォーレの様子にユィリイは自分が安心していくのを感じていた。
「なるほど。この件は私に任せなさい。君は何もしてはいけないよ。それと……夏休みに私の研究室でアルバイトをしてみないか?」
「アルバイト……ですか」
「いやなに、私の研究の手伝いだよ。この件のこともある。近くに居てもらった方が都合がいい」
意味深に笑顔を向けたスタンフォーレに、ユィリイはそれ以上何も聞けなくなってしまった。
「そのメールの送り主にも会えるぞ?」
ユイリィは初めてスタンフォーレが謎めいた人に見えた。これまでスタンフォーレは、優しいが鋭い目つきを持った頼りがいのある茶目っ気たっぷりの初老の紳士だったが、ここでそれが羊の皮であり、本性は謎めいた陰謀家なのではないか、と勘ぐった。
ユィリイは自分が何か運命の岐路に立たされている様に心細さを感じていたが、何故かスタンフォーレを疑う気にはなれなかった。
「では決まりだな?」
スタンフォーレは再びエレカのハンドルを握ると、ユィリイの家へと進路をとった。
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