第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第一節 前兆 第五話
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「あ、あの……」
――君からメールが届くとは思わなかったのでね、ちょっと心配になったんだが、電話では話しにくい内容なんだろう?
焦って落ち着きを失くしていた自分が、少しだけ納まっていくのを感じる。
「はい。明日三時に研究室へ伺います」
――今からそちらに向かおう。君の御宅の前に三〇分後に着く。それでいいかい?
「はい!」
――では後ほど。
スタンフォーレは言いたいことだけ言うとさっさと電話を切った。
時計は二一時〇五分を指している。
遅い時間とは言えない。とりあえず、着替えよう。カーテンからちょこっとだけ首を出す。キョロキョロと見回すが、何もない。
周囲に不審な様子がないか窺ったのだ。特に変わった様子は感じられなかったが、もしあったとしてもユィリイには見つけられなかっただろう。ティターンズの指揮下にある諜報部員がユィリイのような素人に見つかるはずもない。
少しだけ安心して、外出着に着替え、レポートをフィルムペーパーに転送する。フィルムペーパーにはワイヤードには繋がっている書換タイプとワイヤードに繋がらない書込タイプがある。紙に出力している暇がないと判断したからだが、もし、消失したとしても惜しくはないからだ。
紙媒体が復活したのはミノフスキー粒子の被害が日常的になってからであり、それ以前はこのフィルムペーパーが主流になっていた。液晶と電子機器の発達はすさまじく、紙の衰退を招いていたが、戦後、記録の保全は紙に戻ってしまっている。
急いで身支度を整えるとフィルムペーパーを巻き上げた。
下に駆け降りると、両親がテレビを見ていた。
「ユィリイ? こんな時間からお出かけ?」
イーフェイの声には少しだけ険がある。遅い時間の外出を快く思っていないのだ。だが、今はそんなことに構ってはいられない。
「出かけるというか、教授に渡すものがあるんだけど、もうちょっとしたら家の前に寄ってくださるって電話があったの」
ユィリイは最後まで言い切ることができなかった。イーフェイの悲鳴のような驚きの声に遮られたのだ。
「まぁ! スタンフォーレ教授がいらっしゃるの?」
リビングからイーフェイが出てこようとする。
慌ててユイリィは母親をリビングに押し返した。
「あぁ、家にはあがらないから」
「そんな訳にいかないでしょう?アナタがお世話になっている教授さんに」
「いや、そうじゃなくって、研究の話だから、誰にも聞かれたくないのよ」
せめて挨拶ぐらいしないとと言い出したイーフェイを宥めすかして追い返し、外に出る。もうすぐ夏休みというのに夜が肌寒く感じたのは気のせいだろうか。
ほどなく、教授のものらしいエレカが来た。
――プッ
短いクラクションが鳴る。周囲を警戒してか、家の真ん前には付けず、少しだけ手前に止まってい
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