高速道路最速奇譚! 後編
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ら元気をもらった気分になって、今日も仕事が頑張れそうだ。そう思った俺は―――その集団出勤者の一人でありながら一言もしゃべらなかったそいつに声をかけた。
「なぁ、コペンよ。片手運転中も事故らないように調整してくれてサンキューな」
『そぉーやねぇー・・・』
車の中に、何とも気の抜ける気だるげな声が響く。2人乗りのコペンには運転手の自分しかいないのだが、実は莎良々ちゃんにAIを搭載してもらわずともこの車には先住者が存在するのだ。そのどちらかと言えば女性に近い声は、こちらが話しかけなければ乗ってくることは殆ど無いし、他人とは滅多に口を利かない困ったちゃんだ。
「お前も喋れるんだから偶にはみんなと喋ったらいいのに・・・」
『そぉーは言うがねぇー・・・ほれ、朧車のわっちとしては・・・おんなじ車と並ばんと燃えんのよぉー・・・』
「リヤカーも自転車も車だろ?」
『ちゃうちゃう・・・なんっちゅーかの・・・おんなじくらいの大きさか、もっとデカいの相手やないと闘り甲斐ないやん?最低でも付喪神憑きのバイクとかなぁ・・・』
百鬼夜行の首領とも言える、中古車のコペンに憑りつく『妖怪・朧車』は眠そうにそう呟いた。
朧車。それは昔々、貴族の乗り物だった牛車に集まった怨念の塊が妖怪となったものだと言われている。車争いとかいうよく分からない場所取り合戦の怨念らしいが、時代が移り変わるにつれてその在り方は変わっていき、今ではこうして小さなコペンに収まっている。
こいつと出会ったのはもう数年前。言うのも恥ずかしいのだが、実は高校時代には走り屋の真似事をして「峠攻め」という奴を本気でやっていた事がある。父親が元暴走族だったのもあり、車に関してはちょっとした伝手があったのだ。
そして夜の峠を飛ばしている最中に、こいつに出会った。当時はもう何の車種かも分からないくらいにボロボロの廃車で、しかもこっちに追突や体当たりを敢行してくるやんちゃさんだった。つい熱くなって2時間近くガチンコのカーチェイスを繰り広げ、俺がガードレールをぶち破ってフライングスカイで先に峠を抜けて一応の決着を見たのだ。
決着がついて向こうの車が止まるまで、その廃車に人が乗っていない事に気付かなかった俺は本当に若かった。いや、無人の廃車に襲われて崖に落ちた車の話は聞いていたし、運転手の顔を誰も見ていないのもまた聞いていたのだが、頭に血の昇った若者っていうのは本当に怖いもの知らずだ。そして、そんなガチンコ勝負が楽しかったらしい朧車はそれ以降俺の愛車に次々乗り移っている。自転車とかスケボーとかにも。
こいつが望むのはたった2つ。俺と共に挑む激しいカーチェイスと、俺に対して挑むリベンジマッチ。朧車は車に乗り移って初めてその力を発揮出来るため、車を一台しか持っていない俺がも
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