ルームアウト・メリー 後編[R-15]
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父親としての矜持なのか、死ぬまで黙っていたようだが。
今更になって、俺は親父と話がしたくなった。もう何もかも手遅れだが、親父にも俺と同じようなことを考えたことがあったのかもしれないと思うと、不思議と話をしたくなった。今までずっと最悪の父だと思っていた親父を少しだけ理解できた気がした。それだけに、余計に親父が死んだことが今更に悲しくなった。もうそれは、叶わない事なのだから。
母さんは、日記などから世間体やしきたりを凄く気にしていたようだ。名家だと思って嫁いだのにこれでは妻としての立場が無い、と言った旨の事が日記に書き記されていたそうだ。貞淑で真面目なだけが取り柄だと思っていた母にも溜めこんでいたものがあったのかと思うと同時に、知ってはいけない側面を見てしまった気がして少し悲しい思いがあった。
母さんにも、話を聞きたくなった。親父に従うだけの人とは言っても、母親として俺に接してはくれていた。俺がいなくなって悲しくなかったのか、とか。世間体と家庭のどっちが本当に大事だったのか、とか。真実を知るのもまた怖いような気がして、それ以上考えるのは止めた。
俺の意思を尊重したい親父と、世間体を求める母さん。
2人の言い争いは、結局家長の父に軍配が上がった。
だがこの頃から貞淑だった母さんの精神の均衡が崩れ始めたようだ。断定は出来ないが、司法解剖や日記の内容から見るに、母さんは麻薬の類に手を出し始めていた。親父が気付いて病院に連れて行った頃には完全な中毒者で、要介護者となってしまった。
親父は政治家だったが、母さんの姿を世間に知らせる訳にはいかないと第一線を退き、母さんの介護を始めた。ごく一部の信頼できる人間だけ真実を知らせ、介護を少しずつ手伝ってもらいながら。世間体を気にする母さんが麻薬中毒者になったと知られれば、崩れた精神に止めを刺しかねない。そう思って、母さんは病気になったのだと周囲には偽っていたらしい。
後は、何の事はない。一向に精神が安定せずに禁断症状で暴れる母さんを世間から隠し続ける毎日に、親父の方も精神が参ってしまったんだろう。次第に介護を手伝っていた人間に連絡も取らなくなり、最後の手段で息子を呼び出す手紙を送るもそれと前後して母さんが首吊り自殺。
自殺の理由を断定するには至っていないが、何となく想像がついた。
「そっか・・・親父め、きっと意地張ったんだ・・・・・・・」
親父は自分の弱みを他人に見せるのを極端に嫌う。妻も亡くし、政治家としての立場も捨て、これ以上生きる気力さえも亡くした親父に最後に残ったのは、父としてのプライドだったんだろう。根拠などないが、俺はそう思った。
つまり、俺を呼び戻さなかった親父の所為。
麻薬に手を出し駄目になった母さんの所為。
そして、全てのきっかけ
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