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【短編集】現実だってファンタジー
ルームアウト・メリー 後編[R-15]
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方の事を妙にお兄ちゃんと呼びたくなるのも、納得できる?」
「理想の妹像か何かを君に押し付けているんだろう。一人っ子だからその辺は分からないけど。難儀な体だな」
「そうでもないわ。意識が反映されればそれに従うだけで全てが進む。私と私の周囲の因果律は全て人の理想が動かしているの。だから、とっても楽。今回は初めて人間の姿になったから歩いてみたけど、やっぱり歩くのは面倒」

それで看護師に部屋を聞いたのか。随分と人間らしい存在のようで、本当の子供みたいだった。それとも、これもまた人間の無意識が集合した結果なのだろうか。恐怖を支配することでおのれを強く保とうと言う願望が、本来恐怖を想起させるものに逆の特性を与えようと考えた結果なのかもしれない。

それにしてもおかしな話だ。
都市伝説を作るのも、実行するのも、それを怖がり対処法を作ろうとするのも人間だ。そうならばメリーさんは人間の自作自演(マッチポンプ)の縮図で、人間の願望そのものだということになる。メリーさんの中には殺す者もいる、という事は、誰かの無意識がどこかの自意識を殺していることになる。無責任な願いが殺人を冒しても、都合のいい無意識が全てを無かったことにしてくれる。

なんとも残酷で、人間の業を感じずにはいられない。だが今はそんな話はいいだろう。俺は改めてメリーに問うた。

「それで、妹キャラを体系づけられようとしているメリーさんは、俺の因果律に何をお望みなんだ?・・・お前はもう、俺の後ろに一度辿り着いたじゃないか」

それが、解せなかった。俺の知るメリーさんの話は、細かい差異はあれ背後に辿り着く辺りで話が終了する。このメリーは一体これ以上何を望んで俺の前に姿を現したのか?その答えを、端的に示された。

「これ」

メリーは、何所から取り出したのか資料の束を俺に押し付けた。警察の捜査資料のようで目を剥く。何でもありなのだろうか、と思ったが、理想そのものなのだから何でもありだろう。内容は親父と母さんの日記から推測される家庭状況の解析だった。思いがけず事件の真相に近付く手がかりを握り、生唾を呑み込む。
横からメリーが無言、無表情で見ていた。これを俺が読むことが、求められているのか。無為なる意識の集合体に。だが、俺もこの内容を知りたい以上は拒否する理由もない。一息ついて、ページをめくった。


―――それは、長い長い経緯をかいつまんだ物だった。

俺が家出した後に、親父と母さんは大喧嘩をしていた。
しばらく社会経験を積ませてもいいだろうと俺の家出を許容する親父と、今すぐにでも家に連れ戻して大学に行かせるべきだと主張する母。正直、親父が俺の家出を許容していたのは意外だった。実際には親父も若い頃、重圧に負けて家を出奔したことがあったらしい。蛙の子は蛙と言う訳だ。
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