第二十一話 別れと、違える道(前編)
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続けた。
「つまり、菜野一族がクーデターを起こすきっかけと言って良い事象・・・“九尾封印式事件”、そしてその事件に関わる“ふしみ一族”、“ふしみ一族”が九尾に縁を持つ事になってしまった“能力”とその能力の“根源”・・・これらが大小含めて数えきれない事象を巻き込んで繋がっているのよ。」
何を言っている・・・彼女は何を言っている。訳が分からない。僕は何故、ハナが死ななくてはならなかったかを聞いているのに、そんな難しい事を聞きたいんじゃない。心は動揺し、心臓の音が高く鳴り響く。身体は火照り、頭に血が昇っていくのが分かった。
「違う・・・違う!そんな事じゃなくて、どうしてハナを助けられなかったのかって聞いているんだ!ハナは誰よりも優しくて、気遣いが出来て・・・誰にも好かれるような子だったのに。どうして、どうしてっ!」
込み上げてくる思いを抑えられなかった。口からは自分の声なのかと思うほどに大きな声で叫び、力が抜けた膝を地面につけて拳を叩き付けた。吐き出される思いをどこにぶつければ良いのか分からず、ただ地面へと何度も何度も。それでも、不自然にも涙が出てくることはなかった。
それを彼女は冷たい眼で見つめていた。一片の同情も感じさせないその眼は何も言わない。しかし、彼女の口から発せられた言葉は、僕の心を縛り付けた。
「それは、誰に問うているの?」
込み上げていた思いは一瞬の内に凍りついた。身体が芯から冷えた様に身震いした程に。
僕は何も答える事は出来ない。ただ呆然と彼女を見つめた。
「もう一度、聞きます。今、あなたが口にした問は“誰に問うている”の?」
「そ、それは・・・お稲荷さ」
と言いかけた所で遮られる。
「違うわ。それは、その問いは自分に問うているのよ。何故、自分は彼女を助けられなかったのか。何故、死ななくてはいけなかったのか。彼女を死なせない方法はなかったのか。と言うようにね。そして、その問いが意味するのは何だと思う?」
「・・・え?」
「ただの“自嘲”よ。自分で自分を責めて、自分を“可哀想”だと思っている。助けられなかった自分はダメだ。何をしているんだ・・・自分を好きだと言ってくれた子を守れないのか、何てことだ・・こんな自分て可哀想すぎるってね。あぁ、虫唾が走る。」
彼女の口が笑っているように見えた。僕は自分の腕で自分を抱きしめた。何故だかわからない。しかし、そうしなければ、奇声を挙げてしまいそうだったのだ。
「それは確かに、人間が崩壊しようとする自身の心を守る一種の自己防衛的手段ね。ただ、それは“思い”であって“事象”ではない。これは、人間の悪い癖。考える力はどの種族をも凌駕しうる力を持っているのに、“思い”に囚われてしまう。“思い”に囚われて、“事象”を見ようともしない。理解したかしら?」
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