第二十一話 別れと、違える道(前編)
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”だと信じていた存在。何故だか、その時は“彼女”に対して疑問を一つも感じなかった。
「その通り。良く見なさい・・・それの為りを。」
そう言われて、初めて小さな男の子をしっかりと観察した。彼の前に周り、そこで心が動揺する。彼は良く似ていたのだ。小さい頃、何度となく鏡を前にして見た“自分の姿”に。
「理解出来たかしら・・?」
「うん・・でも、これは僕だ。昔の、僕だ。」
「当たり前よ、それはあなたの心の一部だもの。だけど、あなたが生きてきた過程で捨てたモノ・・・不必要だと、邪魔なものだと思ってね。ううん、違うのかもしれない・・・あなたにとっては。」
彼女は、白い毛並みの間に見える赤く輝く瞳を閉じる。人間ほどに表情が豊かとは言えないが、恐らく彼女は“憂い”を含んだ表情をしているのだろう。
「まぁ、そんなものはあなたの心の問題。私には関係ないわ。さて、本題を話そうかしら?」
「本題・・・?」
急に彼女が持つ空気が変わり、緊張が体を駆け巡る。
「あなた、私に聞きたい事があるんじゃないの?」
呆れたように、少しばかりの溜息を付いてそう言った。聞きたい事・・・たくさんある。ふしみ一族について、お稲荷様について、能力に・・・そう、色んな事が理解できないままに時が進み、流されているような気持ちになる。火影様から聞いた話も、どこか自分が納得できるような解答でなかったのだ。まだ、何かが足りないか、根本的に違うか・・・。これは、それを知る大きなチャンスだった。当の本人である“お稲荷様”に聞けるのだから・・・でも、今の僕の心はそれに思いを持っていなかった。違う事が、僕の心を支配していた。
「どうして・・・どうして、こうなってしまったの?」
「?」
彼女が怪訝そうな瞳を向ける。しかし、そんな事は何も気にならない。
「どうして、ハナは死ななくてはいけなかったの・・?」
それを聞いた彼女は得心を得た様に、瞳を閉じる。白く美しい尾が一度だけ、滑らかに揺れた。
「そう、あなたの思考はそこに行くわけね・・・。菜野ハナが死んだ事は“必然”だった。偶然でも、あなたの選択肢がいけなかったとか、そんなものじゃない。」
「・・どういう事?」
「起こるべくして起きた、そう言っているの。全ては繋がっている・・・赤い糸でね。あぁ、赤い糸って言っても“運命の糸”と言うロマンチックなものではないわよ。人間の憎悪と悔恨によって産まれた血飛沫によって、赤く染められた糸の事。はぁ、人間って本当に哀れ。同じ種族同士で恨み、憎しみ、妬んで殺す。争いを好み、蹶起して相手の血を啜る。」
低い笑いを堪えるように、顔を屈めた。彼女の答えは難しく、その言葉の意味を理解する事が出来なかった。彼女はそれを理解したのだろう、少しばかり苦笑しつつも説明を
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