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戦争を知る世代
第二十一話 別れと、違える道(前編)
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、何故こんな不条理が許されるのかと・・・目に見えるモノ全てを憎んだ。抗う事が許されない“それ”に憤り、それが許された世界を、それを看過してしまった自分を恨んだのだ。

 こんな時ですら、重く鉛のような色した雲から雨は降り続ける。その雨は俺たちの身体を濡らす。身体はすっかりと冷え、芯から震えるような錯覚を起こした。誰もが何も言葉を発する事なく、動こうとしない。その永遠に続くかに思えた沈黙は、不意に破られた。

「・・・んっ。」
俺らの中心で横たわっていたふしみイナリが目を覚ました。ゆっくりと瞼を開け、二度三度と確かめるように瞬きをした。そうして完全に瞼を開けた後、彼は身を起こした。

「イナリっ!大丈夫!?」
トバリさんがすぐさまに声を掛け、彼の身体を支えた。

「大丈夫かい、イナリ君?」

「イナリ・・・気分はどうじゃ?」
ミナト先生、火影様もトバリさんに続いて声を掛ける。身を起こした彼は、ゆっくりと辺りを見渡す。何だ・・・どこか、違う。そんな気持ちが湧き出てきた。目の前にいる彼は、自分の知る彼と何かが決定的に違うと、感じたのだ。不意に彼と目が合う・・・あぁ、そうか、眼が違うのだ。彼の眼は、何もかもを捨ててしまったような眼をしていた。



少し戻る、
???
ふしみイナリ


 泣いている。僕の目の前に、小さな男の子が膝を抱えて泣いている。僕からは、彼の背中しか見えないのでどんな表情なのか分からない。辺りは青白い靄に包まれているようだ、何も見て取れる事はない。しかし、泣いている子どもだけがしっかりと見えた。

「・・・どうしたの?」
僕は、声を掛けた。彼を放っておく気にはなれなかったのだ。しかし、彼は何も聞こえなかったかの様に、肩を震わせて泣き続けた。声が聴こえなかったのか、そう思ってもう一度声を掛けようとした。ただ、それは僕が声を発する前に、違う声によって遮られる。

「やめなさい。」
声が僕の後ろから響いた。鈴が鳴る様な、綺麗で美しく、心に響くような気持ちになる。その声を追って、後ろに振り向いた。そこには、幼い頃から幾度となく目にしたモノがいた。目にした事はあるものの、目の前に現れ、僕に話しかける事は初めてだ。心に少しばかり温かいものが流れ、ゆっくりと呼吸する。

「やめなさい・・イナリ。それは、何者でもないもの。あなたの心の内側に巣食う“黒い異物”です。」
白く、美しい毛並みを持つ“彼女”は、尾を揺らしながら、忠告めいた言葉を発した。―そう、僕の目の前に現れた“それ”は、“白い狐”だ。白く輝く毛並み、凛とした佇まい・・・触れてはならない、そう感じてしまう程に神々しいと言える。

「黒い・・異物?」
僕は、目の前に佇む“白い狐”を瞳に映して答える。何度も見た狐・・・幼い頃から“お稲荷様
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