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戦争を知る世代
第二十一話 別れと、違える道(前編)
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。イナリは何も悪くないよ。」
微かに、首を横に振る。彼女は、そんな状況でもないのに笑っていた。

「そんな事・・・!」
そう、言うつもりだった。でも、それは彼女の言葉に遮られる。

「さっきも言ったけど、ちゃんと聞いて欲しいの。私ね・・ごほっ、ごほ」
言葉の節々で、血を吐く。口元を赤く濡らして。

「ハナ!?話しちゃダメだ・・・すぐに誰かを!」

「イナリ・・・こっちを見て・・?」
その言葉は心に響く。否、心を鎖で締め付けるような感覚に襲われた。僕は彼女に眼を向けた。彼女の瞳は、僕を捉えて離さない。

「・・・・大好き。最近まで気付かなかったけど、気付いたら・・・分かったの。ごほっ・・・ごほ・・・ずっと、ずっと昔から好きだったんだって。」
そう言いながらも、彼女の手は僕の頬を撫でる。

「・・・ずっと一緒に居たかった。もっと、あなたの傍に寄りたかった。」
涙が、彼女の頬を伝う。僕の頬に充てる手は震え、指で僕の唇を撫でる。

「・・・こんなに好きなのに、こんなに大好きなのに。何で、こうなっちゃたんだろう?ただ一緒にいる事が、こんなに難しいことなの?」

「ごめん、ハナ。僕が、僕に力があれば。守るだけの、強さがあれば・・!」
彼女から視線を逸らす。見ていられなかった。彼女の瞳に写る“自分の姿”が情けなくて、苦しくて、どうしようもなかった。
 そんな時、一瞬腕が軽くなったと感じた後、僕の唇に暖かくて、柔らかいものが触れた。それは・・とても切なくて、とても優しいものだった。

「ふふ・・・最初で、最後のキス。あなたで・・・よかった。好きになって、よかった。」
彼女は笑う。いつも見せた、花のように咲く笑顔で。僕の心はこれ程までに無い程に、締めつけられる。それはとても痛く、針で刺したようなものだ。涙は雨とともに頬を伝い、彼女の笑顔に滴った。瞬きをするのも忘れて、彼女の顔を瞳に映し続ける。しかし、その花が咲いた時間は、余りにも短い。短すぎた。

 彼女は、その言葉を残して瞼を閉じた。頬を触れていた手は、力を失くしたように地面に落ちる。・・・何度も呼びかけた。何度でも、呼びかけた。そうしてさえいれば、もう一度その瞼を開けて、花が咲いたような笑顔を見せてくれると思った。いつものように、僕の名前を呼んでくれると思った・・・。

でも、二度と彼女はその瞼を開ける事はなかった。

「あぁぁぁぁぁぁぁ!」
僕は、彼女を抱いて叫んだ。彼女と過ごした日々が走馬灯のように駆けていく。女の子の割に強気だし、怒ると怖いし、すぐに手が出ちゃう。でも、優しくて、暖かかった。彼女が笑ってくれるだけで、陽だまりに体を注いだかのように癒された。
瞼の裏に彼女が写る。花が咲いたように笑っている。でも、彼女は少しずつ少しずつ離れていく。僕
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