第百七話 決戦の前にその九
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「暗夜行路でした、よりによって」
「よりによってですか」
「はい、よりによってでした」
高代にとってはそうだった。
「テキストで買って来てくれと言われた瞬間にうんざりとなりました」
「そんなに暗夜行路お嫌いですか」
「うんざりってなるまでに」
「嫌いです」
そうだとだ、高代は二人に答えた。
「本当に」
「そうでしたか」
「そこまでだったんですね」
「全く、それで」
高代は苦々しい口調で話していく。
「いい思い出にはなっていません」
「実際暗夜行路で京都はどれ位出ますか?」
「あまり出ていないです」
「そうですか」
「だから余計にわからないのです」
今でもだとだ、上城に答えた。
「講師の先生が好きだったかも知れませんが」
「暗夜行路をですか」
「僕はとにかくああしたテーマの作品は嫌いなので」
「抵抗があったんですね」
「そうでした」
こう二人に話す。
「ですがこうしたことはですか」
「あるんですか」
「世の中には」
「会わないだろうと思っていても」
作品を人に例えての言葉だ。
「会ってしまったりします」
「しかもその相手がですね」
「会いたくない場合もですね」
「はい、あります」
そうなるというのだ。
「それが僕にとってはです」
「その講義での暗夜行路だったんですね」
「そうだったんですね」
「全く、今もわかりません」
「京都で志賀直哉ですか」
「それも暗夜行路ですか」
「全く、しかも講義の間です」
その講義の間、というのだ。
「ずっとです」
「ずっとですか」
「その間」
「その嫌なテーマをずっと言われていました」
高代にとってさらに悪いことにだ。
「講義をしていた先生の趣味かどうかわかりませんが」
「何か悪いことが重なったんですね」
「先生にとって」
二人のその話を聞いて言うのだった。
「本当に運が悪いですね」
「そこまで重なりますと」
「暗夜行路は恋愛小説とも言っておられましたが」
その説は時折ある、とはいっても志賀直哉に恋愛小説というと結びつかない人も多かったりするのだが。
「そう言われても」
「どうしてもですか」
「抵抗がありましたか」
「本当に」
そうだったというのだ、そうした話をしてだった。
高代は二人にだ、こうも言ったのだった。
「まあ暗夜行路は私もお勧めしません」
「そうですか」
「じゃあ城の崎にてですか」
「和解でもいいです、中編ですが」
志賀直哉では長い方の作品だ。
「しかしすぐ読めますので」
「じゃあ和解にしようか」
「そうね」
二人も高代の話を聞いて述べる。
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