第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第一節 前兆 第一話
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開いた。
すかさず、逃げるようにして女性がステップを降りる。
軍服が追って走り去った。
「ちょっと待てよ! おいっ!」
男の呼び止める声に、ほっと胸をなでおろした。
逃げ切って欲しい。そう願いながら視線を前に戻した。
――バシーンッ!
女性が走り去った方から、頬を叩く甲高い音が響いた。だから、女性が叩いたのだと思った。
だから、驚いた。驚いて音のした方をみる。しかし、ユイリィが想像したのとは違う光景が写った。軍服の男が女性を叩いて、女性が崩れ落ち倒れていく、瞬間が目に焼きつく。
「ティターンズをバカにしてんのかっ?!」
男の怒鳴り声が響いた。
酷い光景だった。男がーーしかも軍人が、女性に暴力を振るっている。
だが、それが現実だった。
バスのドアが無機質に閉鎖音を鳴らす。
うずくまる女性を無理矢理立たせ、腕を掴んだ男の姿が遠のいていく。
ユイリィは、何も出来ない自分が悲しかった。だが、自分に何ができたというのか。
それほど、ティターンズは恐怖の対象である。
ティターンズは普通の軍人ではないのだ。彼らに睨まれれば「反政府運動活動家」のレッテルを貼られてしまう。
ティターンズの横暴は日に日にスペースノイドの反発を高めている。
この首都島である〈グリーンノア〉でさえ、学生の間ではアングラで、反政府組織のビラなどが回ってくる。
――次ハさいど7総合図書館、さいど7総合図書館。
耳障りな合成音のアナウンスが流れる。
ワザとそういう合成音にしているのだろう。
ナチュラルな音よりも、気づきやすいことは確かだ。
人気のまばらなプラットホームが近づいてくる。図書館などというところは、それほど人が集まる場所ではない。
特に、調べ物ならネットで大概のことが済んでしまう時代にあって、図書館に意味があるのか?と考える人もいる。だが、ユイリィは、本と言う媒体が好きだった。
(忘れなきゃ……)
だが、目の前で起きた事実をすぐに忘れられるほど、人は便利ではない。コンピュータのファイルを削除するように記憶は消せはしないのだ。だから、ユイリィは目の前のゼミの教授に提出するレポートに集中するしかなかった。
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