第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
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更に言えば、人見知りっぽくなく誰でも話すくせに打ち解けないという、複雑というか屈折した性格を持っていた。
「いなくなって、わかること……ね」
人は意外とそういう面がある。
失わなければ、その大切さに気がつけない。
だが、そうして、成長していくものなのだろう。
「なんか言った?」
「ううん。なんでもない」
ショッピングに行こうと言うメイリンの誘いを断って、ユイリィは図書館行きのバスに乗り込んだ。
先週、センター街のショッピングモールに付き合って買い物をしたばかりなのに、まだ買いたいものがあるというメイリンの買い物には付き合いきれないと思いながら、バスの座席に身を滑り込ませた。
ふと、目線を上げると、普段なら見知った顔しか乗っていないはずのバスに、軍服を着た、見慣れぬ男が居た。
見慣れぬ男の服装は、地球圏に住む人間なら知らない人はいないだろう。
その軍服は地球連邦軍の軍服と全く同じデザインでありながら、その色が問題だった。
コロニー駐留軍や通常の地球連邦軍の軍服は灰色と相場が決まっている。
だが、その男の軍服は紺地に紅衿、そして、黄色いラインに縁取られたエリートの中のエリートといわれる連中――ティターンズであった。
元々民生用だったサイド7であったが、三年ほど前から隣接コロニーである〈グリーンオアシス〉がティターンズの本拠地として軍事基地化されるに伴い、〈グリーンノア〉にも軍人やその関係者、家族などの移住が多くなり、街で軍服を見かけることは珍しくはなくなったとはいえ、頻繁に目にするというほどでもなかった。
「なぁ? いいだろ……?」
猫なで声とでもいうのか、下卑た色好きのする声色だった。男は、嫌がっているようにも見える女性を口説いているのだろう。
近づかないに越したことはなかった。誰も、彼の軍服を恐れて静止する人はいない。なのに女であるユイリィが助けることなどできようはずもない。
スペースノイドは基本的にティターンズを地球至上主義の象徴として快く思っていない。それはそもそもティターンズのメンバーが選民思想的であり、エリートであることを鼻に掛けていたからでもある。だが、それ以上に、ティターンズの実態が『スペースノイドへのアースノイドの示威組織』であることを見抜いていた人たちが多かったからだ。比較的親地球連邦の住民が多い〈グリーンノア〉でさえそうなのだから、他のコロニーではなおさらだろう。
(誰か、助けてあげて……)
心の中で必死に願っても、それが虚しいことであると解っている。解っていても祈らずにはいられない。
コロニーのエレバスはコントロールセンターで管理されているオートパイロットであり、前時代的な車掌などというものはいない。つまり、無人である。
エレバスがバス停についた。全てのドアが
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