第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第一節 前兆 第一話
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が自給自足型であることに加え、コロニー旅行がそれほど気軽なものではないことにも原因がある。二十世紀の国家乱立期における海外旅行ほどの感覚では計り知れない。旧世紀の第二次世界大戦以前、外国旅行がまだまだ、一般的でなかった頃に良く似ている。第一、現在の地球圏は、戦後それほど時間もたっていない。デラーズの乱とて三年前のことなのだ。裕福層でもなければ、ましてや月になど行かれるはずもなかった。
「だって、スクワーム先輩はちょくちょく帰ってきてるんでしょ?」
メイリンの言うとおりである。
同じ士官学校に通っていても、カミーユは帰ってこなかった。
スクワーム先輩というのは、ユイリィたちの一級上のランバン・スクワームである。彼は連休の度に帰省して、カミーユが元気でやっているということをユイリィに伝えてくれていた。だが、それはランバンの優しさからくるリップサービスであることは明白だった。カミーユはそういう少年ではないことをユイリィが一番知っているのだ。カミーユはもっと、無理してでも男らしく振舞おうとする――突っ張ったところのある少年だった。だから、ユイリィのことを気にしていたとしても、ランバンに伝言を頼むような性格ではなかった。
「向うに彼女でもできたのかな?」
憂い顔でつぶやく。
そうとでも考えなければ、やりきれない。
気にされていない気がしてならないのだ。
(カミーユは私のこと……嫌い?)
嫌いなら嫌いでも構わない。でも、彼女ができたのなら、紹介ぐらいしてくれたって――そんな風にも思う。幼いときからずっと一緒だったユイリィにしてみれば、カミーユは意識した初めての男性でありながらも、家族同然の存在だった。
「カミーユって案外モテないよ?」
言外にそんな物好きはファだけだよ……という声が聞こえた気がした。必死で平静を装っても、耳の後ろは真っ赤に染まっている。
「そんなことないよっ!」
でも、そうだったら嬉しい。
ユイリィの心の声は素直だった。カミーユが士官学校に行ってしまって、突然、一緒に居られなくなってからというもの、塞ぎこみがちだったユイリィが元気になれたのは、最近のことなのだ。ユイリィは自分の気持ちを誤魔化すかのように必死に勉強した。大学に入って、色々考える時間ができたことで、カミーユが好きという自分の気持ちに嘘は吐けないと、諦観できた。
実際のところ、一見女性的な顔立ちをしたカミーユにファンは多かった。が、問題はその直情径行な性格だった。ホモアビス、リトルモビルのサイド大会で優勝するサイド7のちょっとした有名人である。人気はあるが、遠巻きに見るだけで終わってしまう。それはファンサービスもリップサービスもしない、カミーユは、名前のことで「女っぽい」とでも言われようものなら、誰彼構わず喧嘩を吹っかけてしまうからだ。
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