第百六十八話 横ぎりその七
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「徳川殿は武田の軍勢と対峙されているでしょう」
「そしてじゃな」
「負け申す」
これはもう避けられないというのだ。
「それもかなりの負けです」
「そうなるな。しかし武田信玄」
信玄のこともだ、信長は言うのだった。
「やはり只者ではないな」
「ですな。確かに」
「こうしてくるとは思わなんだ」
「軍師山本勘助の考えでしょうか」
「それを受けたのは武田信玄じゃ」
他ならぬ彼だというのだ。
「甲斐の虎じゃ」
「そしてその虎がですな」
「竹千代の前で顎を大きく開いておるわ」
それが現状だった。
「まさにな」
「では」
「うむ、竹千代が死なぬことを祈る」
今はそれしか出来なかった、信長にしても。
「まさにな」
「それしかありませぬか」
「飛騨者を送ってよかったか」
こうも言う信長だった。
「あえて」
「そうやも知れませぬ」
ここでこう言ったのは島だった。
「あの者達は一騎当千、ですから」
「万が一の時はな」
「はい、徳川殿のお力になります」
「そうじゃな、牛助のよい考えじゃった」
佐久間も褒めるのだった。
「ではな」
「それでは」
「急ぐぞ」
信長はあらためて全軍に告げた。
「三河までな」
「そうですな。殿ここは」
「竹千代が危ういわ。あ奴に万が一のことがあってはならぬ」
こう言ってなのだった、信長は全軍をさらに急がせるのだった。信長は報を聞き家康の危機をすぐに察した。
それは信長だけではなかった。この戦は相模の北条も見ていた。氏康は小太郎からその報を聞き険しい顔になってこう言った。
「徳川家康は出るべきではなかった」
「浜松城からですな」
「出るべきではなかったと」
「そうじゃ」
その通りだとだ、松田と大道寺に答えた。
「ここは籠城すべきじゃった」
「それでは武士の名折れでは」
北条綱成がこう氏康に言ってきた。
「それでもですか」
「確かに徳川の名は落ちる、しかしじゃ」
「それでもですか」
「それも生きておれはこそ」
家康の首が胴とつながっていればこそ、というのだ。
「それでこそじゃ」
「では」
「徳川は誤った」
家康は、というのだ。
「あそこは出るべきではなかった」
「籠城を続けるべきでしたか」
「どうせならな。どのみち織田と武田はぶつかる」
氏康はこのことを絶対と見ていた、実際に信長も信玄も互いの主力を向かわせている。衝突は必須だ。
「だからな」
「そこで、ですか」
「徳川は動くべきでしたか」
「何時出てもいいのじゃ」
城からというのだ。
「武田信玄は徳川を誘い出したのじゃ」
「その軍勢を叩く為に」
「あえて」
「そうじゃ、その為にな」
氏康もまた相模の獅子とまで言われた男だ、関東の覇
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ