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孤独な牛
第四章
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スは言うのだった。
「外に出られたいのですね」
「そうだな」
 即答はしなかった。しかしであった。
「外の世界か」
「これは私個人の考えですが」
 ダイダロスは一応こう前置きはした。
「ミノタウロス様は外に出られるべきだと思います」
「外にか」
「そうです。その識見と御苦労を生かすべきなのです」
 これがダイダロスのミノタウロスへの考えであった。
「是非共」
「そうか。外にか」
「如何でしょうか」
「まず思うことだが」
 ミノタウロスもまた前置きしてきた。
「私は。もうここにはいたくない」
「ではやはり」
「そうだ。出たい」
 ここで遂に己の考えをはっきりと述べた。
「外の世界にな。是非共だ」
「それではやはり」
「しかし」
 答えはしたがそれでもだった。その顔が曇るのだった。
「ここから出られるのか」
「ここからですか」
「そうだ」
 その曇った顔でダイダロスに対して問う。
「私は生まれてからここにいた」
「このラビリンスに」
「その私がだ」
 顔はさらに曇っていく。憂いがさらに増していっていた。
「ここから。出られるのか」
「それは」
「できるのか?」
 怪訝な顔でダイダロスに対して問うのだった。
「その私が。本当に」
「結論から申し上げましょうか」
 月明かりに照らし出されているその憂いに満ちた顔を見つつ述べていた。その顔は若いながら威厳と深い叡智があり父であるミノスによく似ていた。ゼウスの息子であり端整なことでも知られている彼に。

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