第九章
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第九章
「早いうちに言わなかったんだ」
「俺は今まで悪いことばかりしていたからな」
彼は父の問いに対してこう返した。
「それで皆に迷惑ばかりかけていたからせめてと思って」
「それでだったのか」
「今ここで何とか真っ当なことがしたくなってな」
だからだというのだった。
「親孝行だと思ってな」
「この馬鹿息子が・・・・・・」
弥左衛門はその我が子の手を持って泣いていた。
「その気持ちを何故今ここで・・・・・・」
「全くだよ、それなら本当に」
母も嘆くばかりであった。
「こんなことにならなかったのに・・・・・・」
「そして維盛様」
権太は蒼白になりながら手に持っているその陣羽織を維盛に差し出したのだった。
「これですが」
「それは?」
「頼朝の陣羽織でございます」
それを彼に差し出したのだ。
「どうかこれで恨みをお晴らし下さい」
「わかった」
維盛はその彼の心を受けた。そうして懐から小刀を出して切り裂いた。すると。
その中からあるものが出て来たのだった。それは。
「数珠!?」
「それに袈裟!?」
どちらも仏門のものであった。
「これは一体・・・・・・」
「どういうことで!?」
「そうか」
驚く一同の中で維盛はこの数珠と袈裟の意味を悟ったのだった。
「出家せよということだ、この私に」
「出家!?」
「それはまたどうして」
「命だけは助けようというのだ、この私を」
「維盛様をですか」
「そうだ」
こう周りに答える維盛だった。
「そういうことだ。それが頼朝の考えなのだ」
「頼朝の」
「どうしてあの男が」
「弥左衛門と同じだ」
彼は今度は弥左衛門の名前を出すのだった。
「かつての平治の乱で頼朝は捕らえられ処刑されるところだった」
「はい、確かに」
「あの時は」
このことは誰もがよく知っていた。平治の乱で源氏と平家は争った。だが源氏は敗れてしまい棟梁である義朝は殺され頼朝も捕まってしまったのだ。清盛は彼を処刑しようとした。
しかし彼の義母や息子である重盛にそれを止められたのだ。そうして彼を東国に流罪とした。他には義経も助けられている。
「それではその時の恩をここで」
「重盛様の御子息である維盛様を」
「そういうことだ。頼朝はわかっていたのだ」
維盛もこのことを全て察したのだった。
「全てな」
「それでは」
権太はそれを聞いて彼もまた察したのだった。
「梶原景時も俺の女房と子供なのを承知で」
「そうだ」
維盛は愕然とした顔になるその権太に顔を向けて告げた。
「おそらく今は放たれているだろう」
「無事か。しかし」
しかしだった。権太は思うのだった。
「それじゃあ俺がやったことは」
「権太・・・・・・」
「兄さん
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