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いがみの権太  〜義経千本桜より〜
第一章
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のか!?」
「いえ、そうは言いませんがね」
 口ではそれは否定した。流石に相手が武士だからである。
「けれどないもんはないんですよ。どういうことですかね」
「武家の者を怪しむというのか」
 小金吾も武士だ。それに対して憤らない筈がなかった。
「ならばここで」
「お待ちなさい」
 しかしここで若葉が立ち上がり二人の間に入った。
「奥様」
「小金吾、今は大切な時です」
 まずはこう彼に告げるのであった。慌てたような顔で。
「ここで騒ぎを起こしては」
「しかしです。この者はどう見ても」
 そうであった。かたりであった。武士としてそのような者に付け込まれることが我慢できなかったのだ。しかしそれでも若葉は言うのであった。
「それでもです。見つかってしまえば」
「くっ・・・・・・」
 歯噛みしたが仕方がなかった。小金吾は止むを得なく二十両を路上に投げ出した。男はすぐにそれを懐に入れると彼に顔を向けてにんまりとして言うのであった。
「やっぱりありやしたね」
「貴様、よくもぬけぬけと」
 また柄に手をやる。しかし男はさっと後ろに飛び退いてそれから言うのであった。
「危ない危ない。じゃあ俺はこれでな」
 そのまま何処かに去って行った。小金吾は今は苦渋に顔を歪めさせるしかなかった。
「世が世ならあのような輩に」
「それは言っても仕方ありません」
 若葉がその彼に対して告げる。彼女も苦しい顔であった。しかしそれでもであった。
「だからもうここは」
「はい。行きましょう」
 一行は落ちぶれた者の悲しさを味わいながら立ち上がり再び歩きだした。暫く路を進んでいると後ろから。剣呑な声が聞こえてきたのであった。
「いたぞ!あそこだ!」
「あそこにいたぞ!」
「!?まさか!」
 小金吾はその言葉にすぐに振り向いた。するとやはり彼等がいた。
「あれが若葉内侍だ!」
「子の六代もいる!」
「逃がすな!」
 口々にこう言って刀を手に追ってきたのであった。小金吾もそれを見てすぐに刀を抜いた。
「ここは私にお任せを!」
「小金吾!」
「奥方様と若様は先へ!」
 そして二人を先に行かせようとする。

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