第百六十八話 横ぎりその六
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「そして天下を治める股肱の一人とする」
「そうされますか」
「無論大事なのは二人じゃ」
「織田信長と上杉謙信ですか」
「あの二人は外せぬ」
彼の天下にもというのだ。
「しかしそれと共にな」
「徳川家康もまた」
「用いる、あの者は天下の者じゃ」
「そこまでの者ですか」
「そうじゃ、そう思わぬか」
「確かにそれなりの者ですが」
原もそれはわかる、家康は武辺もさることながら政もよい、三河も彼が戻ってから豊かになってきている。
だが、だ。それでもなのだ。
「ですが天下の者ですか」
「その通りじゃ」
「では御館様がおられねば」
「運がよければ天下人やも知れぬな」
そうなっているかも知れないというのだ、家康は。
「少なくとも織田信長にも然程遅れは取っておらぬ」
「織田信長と比べても」
「それ程変わらぬ」
そこまでの資質がだ、家康にはあるというのだ。
「そこまでの者じゃ」
「左様ですか、では」
「あの者も手に入れる」
生きればというのだ。
「他の徳川の者達もな」
「ではその為にも」
「徳川も織田も倒すぞ」
「わかりました」
「さて、ではじゃ」
ここまで原に話してだ、信玄はまた全軍に告げた。
「足を少し遅めよ」
「わかりました」
「そして、ですな」
「あの場で戦う」
その場が何処なのかはもう言うまでもなかった、今の武田軍においては。
「わかったな」
「さすれば」
「まずは足を緩め」
「徳川の軍勢から目を離すでないぞ」
余裕と共に言う信玄だった、彼は今はあえて軍の足を緩めさせ進みを遅くした。そのうえで家康を見ていた。
武田が浜松城を攻めずに三河に向かっていると聞いてだ、信長は瞬時に顔を強張らせてこう言ったのだった。
「これはまずいのう」
「まずいですか」
「これは」
「大いにな、まさかと思ったが」
ここで大谷を見てだ、信長は言った。
「御主の言う通りになったな」
「それがしもまさかと思いました」
大谷自身もだとだ、彼は馬上において答えた。織田の軍勢は今も三河に向けて兵を進めている。その中でその報を聞いたのだ。
「ですがこう来ると」
「竹千代が危ういな」
「はい、武田は徳川殿を誘いだしています」
「そして竹千代は気付いておらぬ」
「徳川のどの方々も」
「これは危ういわ」
信長は強張った顔のまま言った。
「竹千代も徳川の軍勢も」
「ですな。これでは」
「急ぐか、ここは」
信長は前を見て言った。
「間に合わぬであろうが」
「おそらく我等が武田の軍勢と遭う前に」
それよりも前にだというのだ。
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